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「指名NGリスト」の望月衣塑子記者から見たジャニーズ問題

望月衣塑子・『東京新聞』記者。|2023年10月31日8:56AM

ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏による未成年者への性暴行は、数百人の被害者を生んだことが明るみに出た。その名を冠した屋号は名称変更されたが、被害者の救済計画は不透明なまま。さらなる追及が必要だ。

社名の看板が外された旧ジャニーズ事務所。(撮影/編集部)

 ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏(2019年死去)による、半世紀以上にわたる過去最大規模の性加害は、見て見ぬ振りをされてきた。事態が動いたきっかけは「外圧」だ。23年3月に放映された英BBCの番組内で複数の男性が被害を告発。これを受けて4月に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で「4年間で15〜20回被害に遭った」と証言した。

『朝日新聞』や『東京新聞』など新聞は翌日朝刊でオカモト氏の会見を報じたが、NHKは会見翌日の夕方に遅れて放送。民放の多くは扱わなかった。本格的な報道は、藤島ジュリー景子社長(当時)がビデオメッセージで「おわび」し、再発防止特別チームに調査を委託することを表明してからだ。

 私も詫びなければならない。『週刊文春』報道をめぐる訴訟で、ジャニー氏の性加害を認定した04年の最高裁決定を当時、知らなかった。報じていれば、その後の被害は防げたかもしれない。いま取材を続けるのは、実態解明と被害者救済の報道に尽くすことがせめてもの罪滅ぼしだと思うから。特別チームが批判した「メディアの沈黙」の責任を、すべての報道関係者が肝に銘じなければなるまい。

犠牲のうえでの互助関係

 事務所の対応は常に後手に回っていた。1回目(9月7日)の会見で「ジャニーズ」の名称を存続させ、ジュリー氏が株の100%を保持したまま取締役に残る方針を表明。財界を中心に批判が起き、タレント契約を見合わせる動きが急速に広がった。企業の動きにテレビ局も同調し、名称変更などの要望を事務所に申し入れた。対応に迫られた事務所は方針を転換。再発防止策と被害補償の方針を示した2回目の会見(10月2日)では一転して「SMILE-UP.(スマイルアップ)」への名称変更を発表し、ジュリー氏は株主にとどまったうえで補償業務を担うとした。

 だが、10月の会見では「内向き体質」をさらに証明してしまう。9月の会見とは異なり、「1社1問まで」「会見時間は2時間」という制限が設けられた。これまで多くの不祥事の会見に出席してきたが、弁明する側からこんな制限がかかるのは前代未聞だ。コンサルタント会社は記者の「指名NG」「指名候補」のリストを作成し、司会者にも渡していた。私もNGリストに入っていた。

 最初に指名された4人のうち3人は「指名候補」の記者やリポーターら。一方、NGは6人中、当てられたのは元『朝日新聞』記者の佐藤章氏のみ。私やフリーの鈴木エイト氏は挙手を続けたが、目があっても当てられなかった。同様にNGリスト入りしていたユーチューブ番組「Arc Times」の尾形聡彦氏が「フェアじゃない」と批判すると、司会者は「フェアです」と反論。『産経新聞』記者やリポーターたちからは「司会はしっかり回せよ!」「ルールを守れ!」などのヤジが飛び、騒然となった。

 ここで井ノ原快彦副社長から「全国の子どもたちが見ている。皆さん落ち着いて」と、まるで抗議している側に落ち度があるような発言が出た。会場からは拍手が起きた。不祥事側に記者が拍手するのをみたのも初めてだった。

 当てられなかった私はマイクなしで質問した。うち1問は、特別チームから「性加害を知っていた」と指摘された白波瀬傑前副社長の説明責任について。メディア対応を一手に担い、タレントの起用をめぐりテレビ局や各媒体に働きかけをしていたとされる。東山紀之社長は「説明責任はある」と答え、各紙がこの発言を報じた。この質問は通常なら会見冒頭で聞くべき内容だ。キーパーソンを隠したままタレント出身幹部に会見させていること自体、逃げの姿勢と内向きの論理を表すものだからだ。

 さらに白波瀬氏は日頃から、テレビ局・芸能媒体の幹部や担当者らと飲食をともなう交流があったとされる。事務所と良好な関係を築き、キャスティングに成功したりネタをもらったりした担当者は、視聴率や「特ダネ」という利益を得て出世し、さらに「ジャニーズ帝国」をゆるぎないものにしていく――。そんな互助関係が、数百人の少年の犠牲のうえに成立してきた。きわめて罪深い。

 会見で井ノ原氏に拍手をした人のうち、何人が白波瀬氏に質問できただろうか。利益相反が疑われる関係者こそ、本当の「NG記者」であり、この問題の取材から外れるべきだ。そして、白波瀬氏に会見で説明させなければ、見て見ぬ振りをしてきたメディアの罪も隠され続けることになる。批判の矛先はいまメディアにも向けられている。特にタレント出演など編成・制作で利害関係があったテレビ局だ。被害者らは第三者機関による検証を求めている。NHKやTBSなどは自社による検証報道をしたが、テレビ朝日は10月20日時点でまだだ。そして、どこも第三者による調査は行なっていない。

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