考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

鉄と朝鮮人労働者の遺骨のゆくえ

崔善愛|2023年10月30日6:29PM

「世界は鉄でできている。」――こんなキャッチコピーが電車内ビジョンで流れた。日本製鉄の広告だ。じっと見入った。この数年、遺骨問題で悩んでいる。日本各地に残る朝鮮人労働者の遺骨を祖国の遺族のもとに届ける際、日本製鉄など企業の賠償責任を問わないままでよいのだろうか。

 10月9日、ピアノ公演のために北海道・室蘭に向かった。高台から町の全景を見渡すと、故郷・北九州工業地帯の光景と同じだった。中学・高校時代、級友の親たちは多くが八幡製鐵所に勤めていた。この製鐵所が日清戦争の賠償金をもとに建てられた――その意味を意識したのは、遺骨問題と対峙するようになってからだ。

 1931年、日本が中国への侵略戦争を始めると鉄鋼の需要が増え、34年、日本政府は八幡製鐵所をはじめ官民の製鉄事業者を合同、日本製鐵を設立した。37年、日中戦争が始まると、日本軍は中国の大冶鉄鉱を占領し、日本製鐵の所有として大量の鉄鉱石を八幡製鐵所に輸送した。

 戦後、日本国内で強制労働のなか死亡した中国人の遺骨が発掘され、53年以降、9回にわたって返還。黒潮丸の第1次返還では550体が返されたと記録される。

 室蘭では2008年、市民の尽力で朝鮮半島出身者の遺骨3体が光昭寺から韓国の「望郷の丘」へと運ばれた。同行した朝鮮人強制連行犠牲者遺骨捧持団の富盛保枝さんは「遺骨返還にあたり、遺族への謝罪と賠償を企業に対して求めても返答なし。ただ追悼法要に新日本製鐵(現・日本製鉄)からお花と見舞金3万円が届いていた」と振り返る。なんという命の軽さか。

 朝鮮戦争やベトナム戦争の特需で成長し続けた大企業は武器輸出三原則の撤廃で、再び巨大軍需産業化していないだろうか。

 ところで、ピアノ内部にある黄金色をしたフレームも鉄製だ。スタインウェイやヤマハが大ホールの隅々まで届くパワフルな音を実現できたのは、この鉄のフレームのおかげ。フレームが音色の要でもある。

 ヤマハの前身・日本楽器製造も戦時中は軍用機のプロペラをつくっていた。楽器製作の高度な技術が生かされていたようだ。戦後、ピアノは豊かさの象徴、一家に一台のステータスシンボルであったが、今は色あせてしまった。ピアノが売れない時代、また楽器ではなく戦闘機をつくることにならないだろうか。

(『週刊金曜日』2023年10月27日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ