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杉田水脈氏批判の報道から抜けた視点 
問題の核心は史実否定の「歴史戦」

早川タダノリ・編集者|2023年10月19日5:47PM

 杉田水脈議員(自民党)のブログでの書き込みに、ついに札幌法務局から「人権侵犯の事実があった」という認定がくだった。2016年2月に「国連・女子差別撤廃委員会」(於ジュネーブ)に参加した報告として「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」と書いたことについてだ。このことは同氏のブログだけでなく、青林堂が刊行していた保守言論雑誌『JAPANISM』第30号(16年)でも掲載されていた。そもそもこの記述が公開された16年12月12日直後から問題にされてきたことを思えば、あまりにも遅すぎる認定だった。

杉田水脈氏自身も旧ツイッターで「私の一番の頑張り処は歴史戦」と語っている。(2022年12月20日)

 この「人権侵犯」認定が明らかになって以降、いくつかのマスメディアやSNS上で、こんな人物が国会議員をやっていていいのかと強い危機感が表明されている。

朝日新聞は9月23日付で「杉田水脈氏 もう議員の資格はない」と題する社説を出した。マイノリティを「攻撃して平然としている与党議員を放置し続けるのか」「杉田氏を政務官に起用した、岸田首相の人権感覚もまた問われている」と述べている。また毎日新聞も10月2日付の社説「杉田氏の人権侵犯認定 国会議員の適格性を欠く」で、「人権の尊重は政治の根幹である」と訴えている。

 東京新聞は、9月26日付のWeb版記事に「杉田水脈議員に『人権侵犯』の認識はあるのか? 繰り返す弱者への蔑み 自民党が責任問わないのはなぜ」を掲載。杉田氏の政界デビュー以降の言動を追い、「問題のある言動を繰り返し、人権侵犯との認定を受けても、差別と認識しているか分からない。これで国会議員の資質があるというほうが難しい」と、デスクメモで締めくくっている。

 いずれもごもっとも……なのだが、なんかおかしい。いずれの論説にも共通して抜け落ちているのが、彼女の「慰安婦」問題や「歴史戦」についての諸発言なのだ。

 杉田氏が「国連・女子差別撤廃委員会」に「なでしこアクション」の山本優美子代表(元在特会幹部)らとともに参加したのは、日本軍「慰安婦」の強制性を否定し、「20万人」という数字は捏造であり、「性奴隷」ではなかったと訴えることが目的だった。

歴史否認主義運動の尖兵

 杉田氏が国会議員になった当初から熱心に取り組んできたのが、「慰安婦」問題や「徴用工」問題などの史実を否定し、それを「日本の『正しい姿』の発信」として対外的に広報していく「歴史戦」だった。河添恵子氏との共著『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)では、「アメリカもそうですが、慰安婦像を何個建ててもそこが爆破されるとなったら、もうそれ以上、建てようと思わない。建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」などと放言しているありさまだ。故安倍晋三に見出されて次世代の党から自民党に鞍替えした杉田氏は、官製歴史否認主義運動としての「歴史戦」の尖兵として活用されてきたし、自らもそう位置づけてきたのだ。

 一連の報道のうち、杉田氏と「歴史戦」について言及したもので目についたのは、安田菜津紀氏が毎日新聞政治プレミアに寄稿した「杉田水脈氏の『続投』」と、プチ鹿島氏が文春オンラインに寄稿した「『人権侵犯』認定された自民党・杉田水脈がまた出世…『環境部会長代理』に推したのは誰なのか?」の2本だった。この少なさは危機的だ。

 現在、日本の官製歴史否認主義は、対中国ナラティブ戦・認知戦のツールとして「総合的安全保障戦略」の一角をなすものとして組み込まれようとしている。その担い手として、自民党政権は杉田氏を温存し・活用しようとしているのではないのだろうか。その「歴史戦」を突かない朝日・毎日社説は、やはり不可解だ。

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