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核のごみ「文献調査」受け入れを対馬市長が拒否 
「住民投票」で決着狙う推進派

佐藤和雄・ジャーナリスト、「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2023年10月16日6:22PM

 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場選びは、その根拠法が2000年(左の年表を参照)に制定されてから四半世紀近く経つが、なお混迷の中にある。それを鮮明に示したのが、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長の9月27日の表明だった。最終処分場の適地かどうかを判断する第一段階にあたる「文献調査」の受け入れについて、請願を採択した議会の判断とは異なり、拒否する考えを市議会と記者会見ではっきり述べたのだ。

高レベル放射性廃棄物の最終処分問題に関する主な経緯。

 本誌は9月22日号の「きんようアンテナ」で、原子力資料情報室研究員で経済産業省の審議会「放射性廃棄物ワーキンググループ」の委員を務めている高野聡氏の「市長は(受け入れ)反対を表明するのではないか」との見通しを伝えた。結果はその通りとなった。

 比田勝市長が議会と記者会見で述べた「受け入れないとの判断に至った」理由は、次の5点である。以下、詳しくお伝えしたい。第一に「市民の分断が起こっているということは、市民の合意形成が十分ではないと判断している」。第二は「観光業、水産業への風評被害が少なからず発生すると考えられる」という理由。

 第三は「文献調査だけ、という考えには至らなかった」という判断だ。政府は文献調査から次の段階に進むかどうかについて「都道府県知事または市町村長の意見に反して、先へ進まない」との方針を強調する一方で、「最初の段階の文献調査は、事業について議論を深めていただくための対話活動の一環」とも位置付けている。比田勝市長は文献調査を受け入れれば、次の段階へ進むことを拒むのは事実上難しいと判断したようだ。

 第四は、「市民に理解を求めるまでの計画、条件がそろっていなかった」という点。比田勝市長によれば、事業に関する防災計画や事故が発生した時の避難計画について政府に問い合わせたが「今後段階的に調査、プロセスを進める中で検討される、という回答があった」。逆に言えば、現段階では具体的な内容までは策定されておらず、これでは市民に理解を広げるのは困難と判断した、という。

 五点目は、「天然バリアー」となる地層について、「地震などの想定外の要因による放射能の流出の想定も排除」できない、との理由だ。

 比田勝市長の入念な検討と、詳しい説明によって、この案件は終わりとなるのだろうか――。現時点ではとてもそんな気配はない。

 推進派である小宮教義市議に聞くと「民主主義のルールとして、議会と市長の判断が異なる場合には、基本的には住民投票ではっきりさせるべきだ。今回は団体からの請願だったから、直接請求による住民投票条例の制定を選ぶ」と説明してくれた。

 一方、文献調査に反対する「核のごみと対馬を考える会」の上原正行代表は「ストップ核ゴミ」の看板を立てるとともに「来年3月の市長選で圧倒的勝利をめざす」という。

 対馬市での攻防は第二段階に移ろうとしている。

(『週刊金曜日』2023年10月13日号)

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