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「松川事件」無罪確定60周年記念集会を福島市で開催

藍原寛子・ジャーナリスト|2023年10月10日3:38PM

 1949年8月、福島県金谷川村(当時、現在は福島市)で列車が転覆し、3人の乗務員が死亡、労働組合員ら20人が逮捕・起訴(一審で5人が死刑判決)され、1963年9月の再上告審で全員の無罪が確定した「戦後最大の冤罪事件」松川事件。その無罪確定から60年を記念する集会が9月30日、10月1日の2日間、同市の福島大学で開かれた。

2日間でのべ800人が参加した全国集会。閉会後には希望者らが松川記念塔公園に集まった。(撮影/藍原寛子)

 同事件の発生から74年を経た今も日本では冤罪は減らず、再審も進まない。全国から参加したのべ800人が、歴史的な大衆的裁判闘争「松川運動」の成果を改めて共有し、冤罪撲滅と無実の被害者救済、「再審法」改正へ向け、連帯を新たにした。

 初日は日本弁護士連合会(日弁連)再審法改正実現本部長代行で、大崎事件弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士が講演した。冤罪被害者を救う唯一の制度が刑事訴訟法で定める再審だが、捜査で収集した証拠を開示する規定やルールがなく担当裁判官次第であり、裁判所の再審決定後も検察官が抗告(不服申し立て)を繰り返し長期化する問題を指摘。証拠開示制度の整備、検察官の不服申し立て禁止、刑の執行停止規定を盛り込んだ刑事訴訟法の再審関連条文の改正(=「再審法」改正)を訴えた。

 2日目には、放火殺人で無期懲役となり、再審で無罪を勝ち取った東住吉事件の青木惠子さんと、袴田事件を追うドキュメンタリー監督の笠井千晶さんらが登壇。ともに検察の即時抗告による長期化の問題や、検察・警察から証拠開示がされない問題点を指摘した。青木さんは「(娘の)お墓にも行けるようになり、少しずつ気持ちを整理して生きている」。娘を亡くしたうえ、21年間服役した冤罪のいまだ癒えぬ傷を語った。

事件による継承が課題

 松川運動の継承で重要な役割を担う福島大学松川資料室の資料の一部が公開された。全国の支援者が元被告やその家族に送ったはがきや元被告のアリバイを記し無罪の決め手の一つとなった「諏訪メモ」も並んだ。資料は経年劣化が進むが、予算の問題もあり、保存に向け紙類の中性化処理ができたのは「諏訪メモ」原本のみだ。

 当事者や支援者の高齢化も進む。昨年10月には元被告のうち最後の生存者だった阿部市次さんが99歳で亡くなり、今回は元被告がいない初めての全国集会に。松川賞授賞式、大会アピールの採択も行なわれた。閉会後、希望者らは列車脱線事故が起きた現場・慰霊塔と、冤罪撲滅を誓う松川記念塔公園を訪問。NPO福島県松川運動記者会前理事長の安田純治弁護士、故・阿部さんの妻マサヱさんも足を運び献花した。

 安田弁護士は「全国の多くの人たちとのつながりを感じた集会になった」と評価。松川事件では強要された自白をめぐって一度は互いが分断されたが、元被告と家族が一つになり家族会もでき、弁護団、国民救援会も団結したことで全員無罪の民衆運動を全国的に展開したという歴史を紹介のうえ、「分断は今も基地やダム、原発問題などの国策による被害者の間で起きているが、松川運動から学ぶべきことは多い」と語った。

 マサヱさんは家計を支えるため懸命に働いた半生を振り返り「冤罪は人生を狂わせる。私たちも生活が成り立たず、本当に悲惨だった。今、元被告の家族も減り、事件を知らない人の方が多くなったが、若い人にも松川事件に関心を持ってもらいたい」と事件による教訓の継承を訴えた。

(『週刊金曜日』2023年10月6日号)

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