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遺骨返還訴訟は控訴審も原告敗訴だが、判決文には「遺骨はふるさと(琉球)に帰すべき」

西村秀樹・ジャーナリスト|2023年10月10日3:23PM

「持ち出された先住民の遺骨は、ふるさとに帰すべきである」

 本誌で既報の「琉球遺骨返還請求訴訟」(※)の控訴審で大阪高裁は9月22日、一審(京都地裁、昨年5月)に続いて原告の請求を棄却する判決を下した。同裁判は沖縄県今帰仁村にある琉球王国時代の墓所から、戦前に京都帝国大学(現・京都大学)の人類学者が持ち出した遺骨の返還を子孫らが京大に求めたもので、高裁も遺骨の所有権が原告にあるとは認められないとして請求を退けた。

9月22日、大阪高裁での判決に臨む控訴人と弁護団。(撮影/西村秀樹)

 しかし一方で同高裁の大島眞一裁判長(9月10日付退官)は自ら執筆した判決文の「付言」で、子孫らの心情に寄り添い、返還が妥当とする前記の見解を示した。豪州や英米など世界各地の先住民遺骨返還運動の事例に触れたうえで「遺骨の本来の地への返還は、現在世界の潮流になりつつあるといえる」と断定。「遺骨は語らない――。遺骨を持ち出しても、遺骨は何も語らない。しかし、遺骨は、単なるモノではない。遺骨は、ふるさとで静かに眠る権利があると信じる」と述べ、裁判で日本人類学会が提出した「将来にわたり保存継承され研究に供されること」を要望する書面に対しても高裁は「重きを置くことが相当とは思われない」と、バッサリ切り捨てた。

 こうした指摘や見解を示すのであれば、判決の結論でも子孫らの請求を認め、京大に対して遺骨の引き渡しを求めるのが論理の行き着く先と思われる。だが「付言」では「本件遺骨の所有権に基づく引渡請求等が理由がないことは前記のとおりであり、訴訟における解決には限界がある」と釘を刺す。つまり日本の現行の法律体系では先住民族が遺骨の引き渡しを求める法的根拠が乏しいと、高裁の裁判長が吐露したに等しい。

 他方で子孫らと弁護団は、国連の「先住民族の権利に関する宣言」(2007年)などが遺骨の引き渡しの根拠になると主張。そこでは互いの見解が大いに異なる。

「二風谷判決」との類似

 高裁判決のもう一つのポイントは先住民族としての認定だ。判決文は冒頭の「事案の概要」で「沖縄地方の先住民族である琉球民族に属する控訴人らが」といきなり記載。ここで思い出されるのがアイヌ民族の故・萱野茂氏らが原告となって国を提訴した北海道の二風谷ダム用地強制収用裁決の取消訴訟だ。同ダムは1997年に完成し、札幌地裁は同年に原告請求を棄却した。しかし判決は「国はアイヌ文化に対し最大限の配慮をしなければならないのにそれを怠った」とダム建設を違法と断罪。アイヌ民族を先住民族として認めたことで、原告側は実質的な勝訴判決を勝ち取った。この札幌地裁判決をきっかけにアイヌ民族への政策は急速に進んだ。今回、国家機関である司法の場で、アイヌ民族同様、琉球民族を先住民族と認定したことの意味は大きい。

 高裁が方向性を示したのが当事者間での話し合いだ。「付言」で「京都大学、祖先の百按司墓に安置して祀りたいと願っている〇〇(控訴人)のほか、沖縄県教育委員会、今帰仁村教育委員会らで話合いを進め、(中略)適切な解決への道を探ることが望まれる」と述べ、最後にこう結ぶ。「まもなく百按司墓からの遺骨持出しから100年を迎える。今この時期に、関係者が話合い、解決に向かうことを願っている。『無縁塚のぺんぺん草の下に淡い夢を見ていた骸骨』(琉球新報)は、ふるさとの沖縄に帰ることを夢見ている――」。

 判決後に開かれた支援者への報告集会で、同志社大学の板垣竜太教授は「京大は裁判では勝ったと思っているかもしれないが、社会的に負けたのです」と総括した。世界最大の人類学会である米国人類学会は7月10日、那覇市内で琉球人遺骨の現地調査結果について記者会見し「日本政府や研究機関が先祖の遺骨を返還しない状況を作り出していることは、恥ずべきことだ」と、日本の研究倫理基準の低さを厳しく批判した。 

 今回の高裁判決は、京大が研究機関として社会的に存続するためにも、琉球遺骨の関係者との誠実な話し合いを求めたといえる。

(『週刊金曜日』2023年10月6日号)

※昨年5月13日号、同9月30日号、今年9月15日号に関連記事。

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