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「沖縄の基地は本土で引き取るべき」 
辺野古訴訟での県敗訴受け、各地の市民団体が声明

平野次郎・フリーライター|2023年10月3日6:17PM

 沖縄県の辺野古新基地建設計画をめぐり、埋め立て海域の軟弱地盤が見つかったことに伴い防衛省が申請した設計変更を承認するよう国が県に是正指示を出したのは違法だとして県が訴えた訴訟で、最高裁は9月4日、県の上告を退ける判決を言い渡した。

沖縄基地の引き取りを訴える福本圭介さん(右端)。2022年4月、JR新潟駅前で。(提供/全国連絡会)

 これに対し、司法が行政と一体となって沖縄に対する差別政策を正当化するのを見過ごせないとして、市民団体のネットワーク「辺野古を止める!全国基地引き取り緊急連絡会」(以下、全国連絡会)が15日、「私たちには差別をやめる責務がある~9・4最高裁判決に向き合って~」との声明を全国連絡会の公式サイト(※)で公表した。

 声明はまず、沖縄から抗議の声がわき上がるのは当然だとして、「司法や行政のみならず、ヤマトに生きる私たち一人ひとりの人間にも向けられている」と指摘。「私たちは、戦後ずっと日米安保条約を保持してきたが、基地の平等な負担は拒絶し、問題を沖縄に押しつけてきた」「米軍基地がどうしても必要なら、私たちはそれをヤマトにおくべきではないか」など、基地問題が構造的差別であることを説明したうえで、「私たち一人ひとりが、自らの責任と良心に基づいて判断しなくてはいけない。私たちには、この国の主権者として、沖縄に対する差別的政策をやめる責務がある」と主張する。

 全国連絡会ができたのは、2015年に「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」が発足したのが始まり。「自分たちが差別する側にいるという関係性をやめなければいけない」という訴えが共感を呼び、大阪に続いて福岡、長崎、新潟、東京などで次々と市民団体が生まれた。17年に全国連絡会を設立し、現在は13都道府県に広がる。

 一方、沖縄では19年の辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票で7割以上が反対、18年と22年の知事選で辺野古基地反対を公約に玉城デニー知事が勝利するなど沖縄の民意が「辺野古ノー」を突きつけた。だが政府は「辺野古移設が唯一の解決策」との強硬姿勢を変えない。さらに沖縄本島を含む南西諸島をミサイル基地化して自衛隊を配備し、米軍との一体化を進める。「台湾有事」が煽られる中で沖縄が再び戦場として「捨て石」にされる危険性が高まっている。

新聞社説への違和感

 こうした中で全国連絡会は「沖縄を捨て石にしない」「辺野古新基地を断念する」などと訴える意見書採択を求める陳情書を、沖縄を除く46都道府県と1700市町村の全地方議会に提出する運動を続ける(昨年7月1日号参照)。だが意見書採択は福島県川俣町や福岡県福智町、長野県南相木村など7町村と、趣旨採択3市町の計10地方議会にとどまる。

 今回の最高裁判決に対し全国連絡会として声明を出すことを発案したのは「沖縄に応答する会@新潟」の福本圭介・新潟県立大学准教授。最高裁判決について「本土」のリベラル系新聞の社説が「国は沖縄県と真摯な対話を」「政府に求めたいのは沖縄に寄り添う姿勢」と論じたことに違和感を持ったという。社説が欺瞞的なのは基地問題の当事者を「国と県の問題」にして国や裁判所を批判するだけで、本当の当事者は基地を押しつけてきたヤマトの主権者たちであるとの視点が抜けているほか、加害者である国に対し被害者である沖縄に寄り添いなさいと要求しているが、加害者がしなければならないのは加害をやめることであって、加害を続けながら被害者に寄り添うことなどありえない――というのが福本さんの主張だ。

 声明を急いだのは、玉城知事がスイスのジュネーブで開かれる国連人権理事会に出席して沖縄の問題を訴える前にアピールするためだったという。声明は「なぜ沖縄では県知事が国際的な人権機関に出向くのか。ヤマトの『民主主義』が、沖縄の自治を踏みにじり、沖縄県民の人権や権利を侵害しているからではないか」と批判。

 玉城知事は18日(日本時間19日)に国連人権理事会に出席。米軍基地が沖縄に集中する現状や軍事力増強への懸念を述べた。

※「辺野古を止める!全国基地引き取り緊急連絡会」公式サイト
https://zenkokurenrakukai.themedia.jp/

(『週刊金曜日』2023年9月29日号)

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