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宗教2世問題につながる80年代「主婦」の苦しみ

雨宮 処凛|2023年9月1日12:48PM

 安倍晋三元首相銃撃事件から、1年以上が経過した。

 逮捕された山上徹也被告は当時41歳のロスジェネ。旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)への恨みを募らせ事件を起こしたわけだが、彼や私と同世代のロスジェネには宗教2世が少なくない。

 それはなぜなのか。漠然と疑問に思ってきたことに回答が示される一冊と最近、出合った。それは『女性の自立をはばむもの 「主婦」という生き方と新宗教の家族観』(いのうえせつこ著 花伝社)。

 本書には、戦後の女性の自立とそれを阻む構造が綴られているのだが、第四章「新宗教の家族観と八〇年代の『主婦』たち」には、なぜ、当時の主婦が新宗教に惹かれたのかが解説されている。そこから浮かび上がるのは、「女性の社会進出」などの言葉と裏腹に「どう生きればいいのか」わからなくなった妻・母親たちの姿だ。

 著者は、1970年代はじめには女性たちは「抑圧されている」という点で連帯できたと指摘。が、80年代後半から女性の分断が進む。特にこの頃は専業主婦が何かと貶められ、孤立を深めていく。自らの老後や、いずれ来る夫の親の介護問題、嫁姑の確執など悩みも尽きない。そんな主婦たちの「不安」に応えたのが新宗教だったのだ。

 当時、多く主婦を集めた新宗教に共通するのは、「親にも夫にも服従せよ」という教えだったという。たとえば「生長の家」の女性信者を対象とした月刊誌『白鳩』87年5月号には、子宮筋腫になった女性が、夫から何か言われたら「ハイ」と返事をして、ニコニコしてポンと立ち上がる、という「ハイ・ニコ・ポン」を実践して筋腫が消えた話が載っている。「朝起会」で知られる「実践倫理宏正会」には「三指の教え」というものがあり、それは「男性を立てよ」というものだという。

 こうして、主婦たちは自らの状況を正当化してくれる新宗教に走ったわけだが、この心理は非常に理解できるものでもある。親や夫にただ服従するのは辛いけれど、それが「教え」で幸せになれるならば話は別だ。

 思えば、ロスジェネの母親の多くが80年代の主婦である。家制度の中の女の苦しみが、それをさらに強化する新宗教によって救われるという奇妙なねじれ。そしてそれは今、2世の生きづらさとなってこの社会を問うている。

(『週刊金曜日』2023年8月25日号)

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