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東海第二原発運転差止請求訴訟控訴審 
原告側「一審に続き運転差止を」

脱原発弁護団全国連絡会|2023年8月14日5:54PM

 7月11日12時半。14時半の開廷に先だって始まった門前集会で、東京高裁前には多くの市民が駆け付けた。一般傍聴席35席に対して、100人近くの傍聴希望者が並んだ。

記者会見兼報告集会(弁護士会館)。

 2021年3月の水戸地裁(前田英子裁判長)の東海第二原発運転差止判決に対して、被告日本原電が控訴、また、請求棄却された30キロ圏外の原告らが控訴した。

 法廷では、一審原告側は本人3人の意見陳述と弁護士によるプレゼンを行なった。

 一審原告の相沢一正さんは、50年前の1973年に提訴した本原発の設置許可取消訴訟の原告であった。一緒に闘った仲間の多くが鬼籍に入ったが、原発の危険性や課題はそのまま残っている、スリーマイル、チェルノブイリ原発事故後、JCO臨界事故で核事故の恐怖を経験。3・11の被害に接し、脱原発、反原発が認められていたらという思いに駆られた、安全神話は壊れた、東海第二は廃炉にするしかないと強く訴えた。

 花山知宏(ちひろ)さんは、2011年3月4日に帝王切開手術で第3子を出産し、3月11日は退院を翌日に控え、病室で過ごしていたところ震災に遭遇。情報がまったくないまま不安の中にいた。自宅に戻ったが、2人の子どもと同居する90代の曾祖母とともに、避難は考えられなかったという。今の避難計画は、避難ができない人のことを考えていない、30キロ圏に90万人もいる。東京高裁の裁判官にも、東海第二原発を私たちと同じように、身近にある脅威として考えてほしいと締めくくった。

 最後に、大石光伸さんは、茨城県と千葉県にまたがる地域の生活協同組合で働き、福島第一原発から250キロメートルの地域であったが、生活環境が汚染され、何十年と生産者と消費者が共に積み重ねてきたものが一瞬にして壊されたこと、長年関係を育んできた「山木屋グリーン牧場」は廃業せざるを得なかったことなどを述べた。「1997年の再処理火災、99年JCO臨界事故、そして3・11。4たびは繰り返さないでほしい。老朽東海第二は動かす必要性もない」と、日本原電の代理人弁護士側にときおり向いて訴えた。

 只野靖弁護士は、原発は他の科学技術の利用に伴うリスクとは質的に異なる危険を内在しており、事故被害の甚大性を福島事故に沿って説明し、上岡直見さん(環境経済研究所)の意見書を引き、東海第二の事故時の経済的な損失が600兆円以上であることなどを示した。「原発から排出されるエネルギーが膨大であり、直ちに停止できない。安全確保対策の要である安全装置は、想定を超える自然災害等に対して極めて脆弱。地震や火山についての科学は発展途中であり、科学的に不確実な現象に対応しなければならない」

 中野宏典弁護士より、科学の不確実性について、(1)地下深くで行なわれ直接観測できず、(2)実験ができず、(3)データが近時のものに限られているという地震科学の三重苦を挙げた。原発の安全にかかわる問題は、科学論争ではなく、価値判断であるから、裁判所は経済的利益よりも生命や身体の安全を優先させるべきであるという、法的判断を示して司法判断をすべきであり、伊方最高裁の定式を取り、事実上の立証の負担を事業者に負わせ、事業者が「立証に失敗」し、安全が「真偽不明」になった場合には差し止めが認められるべきであると述べた。

 鈴木裕也弁護士は、原判決の判示した、深層防護の第1から第5の防護レベルのいずれかが欠落し又は不十分である場合には、周辺住民の生命・身体が害される具体的危険があるというべきであるという判断枠組みを控訴審でも維持すべきである理由として、原子力法規制が福島原発事故の教訓に基づいて原発の安全対策として5層の深層防護の徹底(5層の防護を用意し、かつ、前段否定・後段否定を徹底すること)を求めているから、その徹底がない原発は安全と評価できず、そのような原発に内在する危険は、許容できない危険という意味で「具体的危険」と評価すべきであることをていねいに論証した。

 最後に、海渡雄一弁護士は「司法に何が求めるられるか」と題し、島崎邦彦著『3・11大津波の対策を邪魔した男たち』を引き、この地震は「想定外」という背後に、組織的な情報の隠匿があったことを正確に認識した上で、次の過酷事故を再発させないため、重大な覚悟をもって、審理に当たられるよう強く求めた。

 裁判所より、次回の進行協議期日では、一審原告側に主な主張と立証計画の方針、一審被告側の反論予定を確認し、弁論期日は追って指定する旨を述べて閉廷となった。

 提出書面等はウェブサイトで読むことができる。http://www.t2hairo.net/

(『週刊金曜日』2023年7月28日号)

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