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「私たちはインボイスに反対します」 
弱いものに負担を強いる輪に乗りたくない

「STOP!インボイス」小泉なつみさんと阿部伸さん|2023年8月4日1:14PM

インボイスについて考えるシリーズ、今回は、いち早くインボイス反対の声をあげて活動を続ける「STOP!インボイス」(正式名称:インボイス制度を考えるフリーランスの会)の小泉さんと阿部さんに話を聞きました。フリーランスで働くお二人だからこその指摘は、インボイスの本質を突いています。

「STOP!インボイス」発起人の小泉なつみさん(左)とメンバーの阿部伸さん。

――正直、インボイス制度が難しすぎてわかりません……。

阿部 たとえばある大工さんが、自分で椅子を作って売るとします。

 まず木材を買います。1000円で買ったとしましょう。すると消費税10%なのでプラス100円、合計1100円。経費として支払います。

 椅子ができました。3000円で売ろうと思います。3000円が本体価格、消費税がプラス300円、計3300円。この300円の消費税は椅子を買った人から預かったもので、そのまま国に納めていると考えられるかと思います。

 だけど、大工さんはすでに木材屋さんに100円を支払っているので、このままだと消費税を400円払うことになってしまいますね。なので、大工さんは、木材屋さんに先に払った100円を、椅子を売ったときに計上した消費税300円から差し引きます。つまり、300円引く100円で200円。大工さんは消費税として税務署に200円を納めればいい。これが「仕入税額控除」です。

免税業者に過酷な制度

小泉 この「引く100円」という仕入税額控除の仕組みを変更するのがインボイス制度で、木材屋さんから「インボイス(正式名称:適格請求書)」という番号付きの特別な請求書をもらわないと、「引く100円」ができなくなってしまうのです。

 今のたとえ話だと額は小さいですけれど、「仕入れの時に支払った消費税が引けない」というのは、年間に積み上げたら大変なことになってくる。「じゃあ皆、インボイスを発行すればいいだけじゃん」と思われるかもしれませんが、インボイスを出すには、課税事業者になって消費税を納めないといけないんです。今は年間売り上げ1000万円以下の事業者は「免税事業者」といって、消費税の納税が免除されていますが、インボイス制度が始まると、免税事業者との取引では仕入税額控除ができなくなってしまうので、インボイスのない小規模事業者が取引からはずされたり、あるいは消費税分の値下げを強要されかねない状況になっているんです。

――『週刊金曜日』もライターやデザイナーなどフリーランスの方にお仕事を頼んでいて、おそらくほとんどの方が免税事業者。この方たちが適格請求書発行事業者登録せず免税事業者のままだと、会社側は年間600万円くらいの持ち出しになると試算しています。

小泉 つまり、600万円分の増税になるわけですよね。それをライターに負担してもらうのか、金曜日が負担するのか、あるいは本誌の値段を上げて読者=消費者に負担してもらうのか――の3択なんです。金曜日の場合はどうするんですか?

――金曜日の場合は、取引のある方々に取引額の交渉をお願いしました。会社は負担を回避したけど、小泉さんがおっしゃるとおり、ライターさんにとっては増税です。

小泉 痛みを負うのは、力関係の弱い方か、増税に耐えられる大企業になると思います。著名な方の場合、出版社側が折れるでしょうけど、売れっ子作家は免税事業者ではない可能性が高いですね。でもご存じのとおり、出版物というのはデザイナーや編集者など、名もなきプロフェッショナルたちが複数関わって成り立っていますから、「有名/無名」「課税/免税」にかかわらず、いろいろな方が下支えをしている。多数の小規模事業者によって支えられている産業構造は、建設業界や配送業界も同じです。

 そんな中、免税事業者に対して「1000万も稼げないような事業者はいなくなっていい」「消費税を納めていないということは脱税しているんだろ、おとなしく払え」みたいな言説も……。

――あるんですか?

小泉 めちゃくちゃあります。ただ「免税事業者は脱税している」という話は消費税法的に間違った指摘だし、1000万円を超えて稼ぐフリーランスは1割というデータもあり、個人事業主のほとんどが免税事業者です。フリーランスには病気や子育て・介護などでこの働き方を選ばざるを得ない人も多い中で、皆に強さを押しつけるのはおかしいと思います。

道の駅でもインボイス

――この活動はいつから?

小泉 2021年の12月からです。30万筆を目標にオンラインの署名活動からスタートして、7月24日現在で20万8537筆集まっています。2月には18万筆の署名を財務省に提出しました。6月14日にはインボイスに反対する日本各地の有志と中継を結び、国会前で反対集会も開きました。

 インボイスが始まると、あらゆる業界への影響が大きいのですが、「STOP!インボイス」と連携するアニメや声優、漫画家、演劇業界などのエンターテインメント関連団体のアンケートによると、これらの業界で働く2~3割の人は「インボイスが始まったら廃業を検討する」と答えています。

――いわゆる「クールジャパン」を支えてきた業界なのに……。

小泉 全建総連という建設系の労働組合のアンケートでも、インボイスが始まったら、1割の人は廃業を検討すると答えています。

阿部 僕は仕事の関係から中小企業の社長さんたちとのお付き合いが多いのですが、皆さん、「インボイス登録をしていない店でものを買ったり、飲食店で接待や会議をするのはやめよう」と言い切っています。どんな商売でもそうだと思いますが、経営の視点で考えれば、安い方がいい。取引先がインボイス発行できない事業者だったら、自分たちが仕入税額控除ができなくなってしまうので、インボイス登録をしない業者はドライに切っていくんです。

小泉 切るときに、「インボイスをもらえないから取引しません」とは、多くの企業も言わないでしょう。一方的な取引停止は公取案件になってしまいますから。

――ほかにはどんな業界が?

小泉 農業にも影響があります。道の駅ってありますよね? そこに卸している農家さんもインボイスを要求されるわけですが、高齢化した農家さんが煩雑な事務作業やデジタル化に耐えられるのか疑問です。若い農家さんは自分たちで販路を開拓してレストランなどに卸していることもありますが、レストランからもインボイスを求められることになります。

 つまり、国内でものづくりをする多くの人に、インボイスは影響するんです。経過措置や緩和措置もありますが、結局納める消費税分を6年間、ちょっとだけ割り引いてやるよってことで、消費税導入時と同じように、小さく入れて大きく育てていくのではないかと勘ぐりたくなります。あと、1回1万円未満の取引はインボイスがなくても仕入税額控除可能というのもあって、これはシルバー人材センターやタクシー業界に向けての措置ではないかと思いました。

――シルバー人材センター!?

小泉 シルバー人材センターで働くおじいちゃんおばあちゃんも、個人事業主の扱いになるそうです。私も知りませんでした。制度を理解しないままインボイス登録して、経過措置が終わった後、「あれ、今月の報酬、なんでこんなに少ないの?」とならないか心配です。

阿部 ヤクルトレディもインボイス登録の通知が来たそうです。

小泉 インボイスの影響を受けるのは、フリーランスや個人事業主といった年収1000万円以下の小規模事業者と、彼らと取引のある事業者。本来仕事仲間である彼らが、消費税の負担を押しつけ合わされているのが現状なのです。

 Amazonや楽天などでは、今後、「インボイス発行店」みたいな絞り込み機能や表示がつくんです。それがないと、仕入れるほうも仕入税額控除ができるかできないかわからないからですね。

 だから1回インボイスに乗っちゃうと、その輪からはずれることができないのです。乗らなければ輪に入らなくてすむけど、乗ると他人にも押しつけるし、自分もそれなしには生きていけなくなるということなんですよね。

阿部 先ほどの社長たちが「インボイス登録した相手じゃないと取引しない」と言ったのは、まさにそこですよね。これまで培ってきた人間関係や信頼関係なんて関係ないです。インボイスに登録しないと、結局、取引から排除されていってしまうんです。

小泉 だから本当に嫌な制度だなと思うんです。

監修/税理士法人東京南部会計 税理士・佐々木淳一
聞き手・まとめ/渡辺妙子(編集部)

(『週刊金曜日』2023年7月28日号)

「STOP!インボイス」のサイト(https://stopinvoice.org/)。署名はhttps://onl.tw/sL8szrcで。

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