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水俣病遺構「百間排水口」撤去の中止求める声が続々

山村清二・フリーランス編集者|2023年8月1日5:12PM

「水俣病の原点」である百間排水口(熊本県水俣市汐見町)が撤去されようとしている。

7月19日、東京での記者会見。前列右から松永幸一郎、野澤淳史、加藤タケ子、柳田邦男、中島岳志の各氏。(撮影/山村清二)

 水俣病の原因企業チッソ(前・新日本窒素肥料㈱)は、1932年から68年まで有機水銀を含む工場排水を排出。八代海(不知火海)全域に水俣病が発生した。百間排水口はその出口となった象徴的な場所だ。チッソが建設し、現在、水俣市が管理しているのだが、6月中旬、市は突然「老朽化」を理由に、百間排水口の樋門と足場を撤去することを発表したのだ。

 これに対して水俣の市民、患者、支援団体などから、百間排水口は水俣病の貴重な歴史的遺構であり、修繕して保存すべきとして、撤去工事の中止を求める声が次々とあがった。「水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会」では6月28日に水俣市へ、30日に熊本県へ要望書を提出。また、7月に発足した「水俣の歴史的遺構を残す会」ではオンライン署名(Change.org)を開始。署名は7月23日現在、1100筆を超えた。

 こうした動きを受けて、熊本県の蒲島郁夫知事は7月5日、撤去については市民の十分な理解を得られていないとして、現地保存の可能性を含めて、県が市と協議入りしたことを明らかにしている(『熊本日日新聞』7月8日付)。

 7月15日、こうした水俣市民の声に賛同する「水俣・百間排水口を歴史的遺構として現場保存することを求める有識者会議」が発足。19日に東京・千代田区の連合会館で記者会見を行なった。

 有識者会議事務局の野澤淳史・東京経済大学現代法学部専任講師は「百間排水口は水俣病の『爆心地』であり、『原爆ドーム』などと同じように歴史的遺構として保存しないといけない。市はなぜ今撤去を急ぐのか」と行政への不信感を表明した。

 有識者会議呼びかけ人の一人で、ノンフィクション作家の柳田邦男さんは「百間排水口は水俣病の歴史を伝える現場・現物であり、これを壊すことは未来を破壊すること。信じ難い行政判断だ」と述べた。

 同じく有識者会議呼びかけ人である中島岳志・東京工業大学教授は「勤務する東工大からは、橋本彦七、清浦雷作といったチッソ側に立った卒業生や教授も出ている。その加害性にも目を向けなければいけない」と語った。

「レプリカ保存」案も浮上

 記者会見には「水俣病胎児性小児性患者・家族・支援者の会」代表の松永幸一郎さん、同会事務局の加藤タケ子さんも参加した。

 松永さんは1958年生まれの胎児性水俣病患者。チッソが百間排水口への工場排水をもっと早く中止していれば、松永さんが水俣病に侵されることもなかった。

「水俣を訪れる人のフィールドワークの案内人として必ず案内しているのが百間排水口。水俣病の原点であり、簡単に撤去などしてはならない」と訴える。

 患者支援のために三十数年前に首都圏から水俣に移住した加藤さんは「県知事が撤去に『待った』をかけたといっても、まだどうなるかわからない。私たちは市との協議に患者や市民も加えるよう申し入れている」と語った。

 同会では会見翌日の20日、環境省に要望書を提出。今後、市・県との協議にも臨んでいくとするが、ここにきて事態が急変しつつある。21日付の『熊本日日新聞』は「百間排水口、レプリカ設置で現地保存へ 水俣病患者らの意向くみ『今の姿』維持 県管理に移行」として、現物を「修繕」したものではなく「レプリカ」による「保存」の可能性を報じたのだ。

 歴史的遺構の保存のありかたをめぐり、水俣市と熊本県、そして政府の対応が問われている。

(『週刊金曜日』2023年7月28日号)

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