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生活保護費引き下げ取り消し訴訟で原告側が2地裁で連勝

三宅勝久・ジャーナリスト|2023年6月14日7:00AM

5月31日、厚労省で控訴中止と保護費引き下げの見直し、謝罪を求める要請文を安西慶高・保護課長補佐(左)に渡す原告団。(撮影/三宅勝久)


 デフレなどの影響を口実に、厚生労働省が生活保護費の基準額を引き下げた処分の違法性を問うて1000人を超す生活保護利用者が全国各地で起こしている「いのちのとりで裁判」(尾藤廣喜・全国弁護団代表)の千葉地裁(内野俊夫裁判長)と静岡地裁(菊池絵理裁判長)の判決が、5月26日と30日に相次いであり、ともに、引き下げは厚労大臣の裁量権を逸脱して違法だとして処分取り消しを命じる原告勝訴を言い渡した。

 さる4月14日、初の控訴審判決となった大阪高裁が「確立した専門的知見」(傍点は筆者)という聞き慣れない概念を持ち出して原告逆転敗訴(一審の大阪地裁は原告勝訴)を言い渡した(4月28日号で既報)ことから他の裁判への悪影響が懸念された。だが、引き下げ作業の過程で不正があった疑いを重視する司法の流れが途絶えることはなかった。千葉地裁判決は、まず、物価下落を理由とした生活保護基準の見直し作業(デフレ調整)にあたり厚労大臣が有する裁量権の範囲について、次のような判断の枠組みを示した。

「デフレ調整を行ったことは、その消費者物価指数による国民の消費実態の把握が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無の観点から首肯し得る場合に限り、許される」

 大阪高裁が発明した「確立した専門的知見」説など歯牙にもかけない明解な判示ぶりである。この枠組みに立って同地裁は、厚労省が「2008年から11年までの物価変動率はマイナス4・78%」だとして生活保護費引き下げの根拠に使った“疑惑の物価指数〟「生活扶助相当CPI」の信頼性を検証。指数に使った品目がテレビなど物価下落の著しい物に偏っており「生活保護受給世帯の消費構造を適切に反映していると認めることはできない」「そのようにして把握した国民の消費実態に準拠して生活扶助基準の水準のデフレ調整を行ったことは合理性を欠く」と述べ、裁量権逸脱を認定した。

 静岡地裁の判断も千葉地裁とおおむね同趣旨。「デフレ調整の必要性、その内容(生活扶助相当CPIの算出方法など。筆者注)の合理性について専門的知見に基づく高度の専門技術的な考察を経て合理的に行われたことにつき、被告らにおいて十分な説明ができていないのであり、(中略)デフレ調整の必要性及びその内容の合理性が裏付けられるものとはいえない」として、引き下げは違法だと判断した。どちらの判決も、データ改ざん、あるいは捏造があったと言っているに等しい、厚労省にきわめて厳しい内容である。

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