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川内原発の運転延長「県民投票で決めよう」署名運動始まる 知事の「公約違反」を批判

薄井崇友・フォトジャーナリスト|2023年6月11日7:00AM


「公約違反だ! 県政史上類を見ない悪行だ!」

 鹿児島県の塩田康一知事への、そんな怒りの声が上がっている。

 九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の運転期間20年延長の是非をめぐり、市民団体の「川内原発20年延長を問う県民投票の会」(以下、同会)が「県民投票で決めよう」と条例制定を求める請求書を5月17日、県に提出。

 6月1日から約2カ月間で約2万7000筆(県有権者数の50分の1)の必要署名を超える3万筆以上を目指すが、この運動スタート直前の5月26日、「必要に応じて県民投票を実施する」とマニフェストで掲げている塩田知事が「県民投票は行なわない」と表明したのだ。

 川内原発1号機は2024年7月、2号機は25年11月に運転期限40年を迎える。九州電力は原子力規制委員会に運転延長を申請し、審査中だ。県にも原子力専門委員会があり、その分科会は九州電力の延長に向けた特別点検などを、委員の1人から「妥当ではない」との声が残る中、「適正」と評価し、5月26日に知事へ報告した。知事の表明はそれを受けたもので、県民投票の代わりに意見募集をするとした。 

 同25日、同会の向原祥隆事務局長は署名運動に出た理由を「黙っていたら危険な20年延長がずるずる決まってしまう。福島のようになってからではどうにもならない」と語った。

 稼働40年超の老朽原発の運転が危険との判断も、県民投票の発議もしない知事の姿勢に業を煮やしたのだ。同会の江田忠雄共同代表はこの県民投票の意義を「自分たちの手で“未来をどうするのか”を考え、判断することが大切。直接請求での意思決定は民主主義の基本です」と述べた。

「署名は無駄」は誤解だ

4月29日「県民投票の会」設立総会は市民や報道陣で満席に。(撮影/吉国明彦)

 県民投票が実現すれば原発運転延長問題に関わるケースでは全国初だ。報道機関の注目も高く、4月29日の同会設立総会では会場の約200席が埋まったという。5月25日時点で約940人の署名収集人(受任者)が決定(6月1日時点で約3800人)。すでに5000筆近くの署名を見込んでいた。議会可決の障壁も「自民党県議会議員にも署名が集まれば条例案に賛成すると言う議員もいる」と向原氏。手応えがうかがえた。

 実は知事に県民投票条例を制定する権限はない。発議の権限が県議会議員、知事、規定数の署名を備えた住民にあり、制定は議会権限だ。住民の署名運動が始まる直前になされた塩田知事の発言は、自らに条例制定の権限があるかのごとき誤情報の流布ではないのか。実際に「署名集めは無駄ではないか」との声が同会に届くという。

 同会は5月30日に声明で「虚偽の事実により県民に意図的に誤解を与えた行為は、地方自治法74条4項に規定された違法行為『偽計詐術等不正の方法を以て署名の自由を妨害』そのものである」(原文ママ)と知事を糾弾。その前日には向原氏から「知事は公約違反です。署名を集めて、あらためて公約を守るように迫り、さらに議会の良識を信じる形で署名運動に6月1日、突入します」との方針が筆者に届いた。老朽原発から日本と民主主義を守る闘いだ。

(『週刊金曜日』2023年6月9日号)

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