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敵と味方に二分類する自民党特有の発想

田中 優子|2023年3月24日7:00AM

 2014年11月26日、当時の礒崎陽輔首相補佐官は総務省の放送政策課に一本の電話をかけ、政治的公平の解釈や運用についてレクを求めた。28日、「一つの番組でも明らかにおかしい場合」について総務省に検討を指示する。明けて15年2月24日、総務省の局長が「首相に話す前に官房長官に」と言及したところ、礒崎首相補佐官は「俺の顔をつぶすようなことになれば、首が飛ぶぞ」と脅した。なるほど山田真貴子首相秘書官(当時)が礒崎氏を挙げて「ヤクザに絡まれた」と表現したのもうなずける。

 そして3月5日、礒崎氏が故・安倍晋三首相への説明の際に「サンデーモーニング」を挙げて「コメンテーター全員が同じことを述べているなど、明らかにおかしい」と指摘すると、それを受けて安倍首相は「正すべきは正す」と答えたという。

 上にはへつらい、下を脅す。こういう人が首相を動かしている。しかしこの件で重要なのは、「コメンテーター全員が同じ主張をする」という感じかたである。「サンデーモーニング」の当時のコメンテーターはジャーナリスト、国際政治学者、環境研究者、元政治家、評論家、そして私は江戸文化研究者だ。今より年齢層が高く出自がまちまちで、話す角度はみな違っていた。

 現在は出演者の年齢層が下がり、NGOの代表、ネットニュース主宰者、科学ジャーナリスト、社会学者等々で、さらに話す内容が異なる。そもそもニュース番組である。話題は政治のみならず事件、事故、国際情勢、気候変動、宇宙など多岐にわたる。その上、この番組の中で最も時間が長く、最も視聴率が高いのがスポーツ枠である。スポーツ枠のみ視聴する人がいることは、視聴率の細かい統計でわかっている。

 自分とは異なる意見を見聞きした途端に「敵だ」と感じ、世間を敵と味方に二分類する発想は自民党特有だ。多様な発言があっても、敵だと思ったら気が付かない。

「おかしい」と「正すべきだ」という補佐官と首相のやりとりも、「悪」と「正義」の二分類だ。世の中には男と女の2種類しかないのだから同性愛は依存症で正さねばならない、となる。世界には共産主義者と自由主義者しかおらず、自分に反対する者はみな共産主義者だと思い込んでいる。

「多様性」という言葉の内実を、そもそも理解できないのかもしれない、と思うと笑いながらも背筋が凍る。

(『週刊金曜日』2023年3月17日号)

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