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松茸すき焼きとワイン一晩で250万円 神戸市「神出病院」問題で緊急市民集会

吉田明彦・精神医療サバイバーズフロント関西|2023年3月5日7:00AM

2月16日の緊急市民集会。右から2人目が林亜衣子弁護士。(提供/兵庫県精神医療人権センター)

「交際費の領収証には、松茸すき焼きとワインで一晩で250万円というようなものがあった」

 精神科「医療法人財団兵庫錦秀(きんしゅう)会神出(かんで)病院」(神戸市西区、土居正典院長)での患者への暴行・監禁事件(本誌昨年11月11日号既報)が発覚して3年が経った。

 男性患者同士にキスをさせる、男性患者の性器に塗ったジャムを別の男性患者になめさせる、落下防止柵付きのベッドを逆さにして患者を閉じ込めるなどの凄惨な虐待行為が公表され、職員らが裁判で有罪判決を受けた。とはいえ、後述する通り問題の根本的解決がなされぬまま事件は幕引きされつつある。

 そうした状況に危機感を覚えた関係者らが2月16日、神戸市内で緊急市民集会(※1)を開催した。冒頭の発言は、同事件に関する第三者委員会で委員を務めた弁護士の林亜衣子氏によるものだ。林氏は「虐待を生んだ患者軽視の風土は利益至上主義がもたらしたもの。医業収入から籔本雅巳(やぶもと・まさみ)前理事長の報酬を間違いなく獲得し、他にも借入金の保証料や交際費として、多額の金を病院の収入から籔本氏に渡していた」と指摘した。

 第三者委員会が昨年5月に公表した280ページにわたる報告書(※2)には、それまで神戸市や報道が伝えていた内容をはるかに超える深刻な実態が書かれていたが、委員として同病院への調査に参加した林氏による以下の話は、参加者にさらなる衝撃を与えた。

 この事件では看護師、看護助手の計6人に有罪判決が下ったが、虐待行為は他にも数多くあった。たとえば同病院B4病棟での暴力、特に性的虐待(男性患者を床に押さえつけての射精の強要など)は元看護師長が行なったが、彼は刑事事件化を恐れて自主退職。現在は他の病院で勤務している。院内では最低限の清潔保持、設備管理、看護提供がなされないまま患者の健康悪化を招いたほか、全体で違法な隔離・拘束が続けられており、それを医師も看護職員も当然のことと考えていた――等々。

「利益至上主義」が背景に

 林氏はこれらの実態について、自身の利益を最大限とするために籔本氏が常に満床状態を保とうとする一方で、徹底して医療現場に投資をしない経営方針をとっていたことを指摘した。

 籔本氏には第三者委員会の調査で確認された8年間だけで総額20億円近くが同病院から渡ったが、法人の役員・評議員・監事らはそれを黙認。そこでは医療法が禁じる剰余金の配当が名目を変えて行なわれており、そうした一連の行為がなければ、経営的には潤沢な医業収入を上げていた同病院の現場は、まったく違っていたことだろう。

 元病院長の大澤次郎氏は籔本氏に忠実に従おうと腐心した。空き病床を埋めるため、劣悪な医療・看護状況にある病棟に内科疾患を持つ患者や高齢者を入れておき、治療に必要な転院をも徹底して抑制。その結果、退院患者の約4割という膨大な数の「死亡退院」の悲劇が引き起こされた。看護職員の負担は増加する一方、教育研修の機会は与えられず、看護スキルも上がらぬまま士気は低下。それがストレス解消目的での患者への虐待の横行・拡大につながった。

 神出病院は現院長の下で現場の改善を進めているとしているが、林氏が指摘したのは、そもそもの歪な経営方針が生み出してきた、患者軽視と虐待・暴力の構造だ。同病院の理事会は、第三者委員会が報告書で提言した、籔本氏への利益の返済要請を依然行なっていない。加えて同病院の経営法人に対する監査指導権限を持つ兵庫県は、第三者委員会の報告書を否定するかのように「運営が著しく適正を欠く」事実は認められなかったとの監査結果を発表している。

 神出病院は今春、経営法人の兵庫錦秀会が大阪府の医療法人聖和錦秀会のグループ(新理事長は籔本氏の長男、籔本武志氏)と統合、本部を大阪市に移転する計画を公表した。

「被害者たちへの謝罪も賠償もなされないままの幕引きを許してはならない」。集会では他の登壇者たちも口々に強調した。

(『週刊金曜日』2023年3月3日号)

※1 主催は「精神医療サバイバーズフロント関西」と「兵庫県精神医療人権センター」。
※2 神出病院の公式サイト(http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/report/)より入手可能。

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