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映像作家・久保田徹さん解放 浮かび上がる国軍支配の闇

北角裕樹・ジャーナリスト|2022年11月26日7:00AM

帰国直後、空港で取材に応じた久保田徹さん。11月18日。(撮影/北角裕樹)

 11月18日早朝、3カ月半にわたるビルマ(ミャンマー)での拘束から解放された久保田徹さん(26歳)が東京・羽田空港の国際線出口から姿を現すと、詰めかけた20人もの友人らが歓声をあげた。報道陣のフラッシュがまたたく中、彼が長年取材してきた在日ロヒンギャの友人らが花束を、日本の友人は120人に及ぶお祝いメッセージを手渡した。久保田さんは何度も「ありがとう」と頭を下げた。

 空港で報道陣の取材に応じた久保田さんはまず「釈放されたのは支援して下さった方々、メディア関係者の方々、解放に向けて尽力してくれた政府の方々のおかげ。言い表せないほどの感謝を感じている」と表明。危険なデモ現場の取材に向かった理由を「ビルマに生きると決めた人がいる。彼らの不自由さや(国軍による)暴力が見えづらい。だからデモを見ないといけないと思った」と説明した。

 久保田さんは三つの罪の合計で懲役10年の刑を宣告されたが、17日の「国民の日」を祝う恩赦の一環で解放された。国軍側は約5800人を対象に恩赦を実施すると発表したが、このうち政治犯は約700人にすぎないとされる。

 恩赦の背景には国軍が国際社会で孤立を深めていることがありそうだ。11月11日の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議はビルマ情勢について「ほぼ進展がない」と批判する文書を発表。恩赦はその直後に突如行なわれた。昨年の秋の恩赦は10月の「ダディンジュ(灯祭り)」の祝日に行なわれたが、今年のその時期には恩赦がなく、その後に国軍指導部が考え方を変えた可能性がある。 

 また、国営テレビは久保田さんやビッキー・ボーマン元英国大使、豪経済学者のショーン・ターネル氏ら外国人のほか、著名民主活動家のミャエー氏ら有名な恩赦対象者のみを集めた映像を放映。今回の恩赦が国際社会へのポーズだと示唆したとも考えられる。

 一方、久保田さんの帰国によって、捜査当局が証拠をでっち上げていたことも明らかになった。

 国軍のゾーミントゥン報道官は8月17日の記者会見で、久保田さんら4人が国軍批判の横断幕を掲げている写真を提示し「デモに参加していた。法によって判決を下さなければならない」と厳しく批判した。しかし空港での取材で久保田さんは、写真について「逮捕された直後に横断幕を持てと言われて撮影された」と証言した。以前からビルマのジャーナリストらは当局による捏造の可能性を指摘していたが、久保田さんによって裏付けられた形だ。

裁判内容わからず有罪に

 入管法違反罪と扇動罪の審理が行なわれた軍事法廷も公正な裁判とはとても言えないものだった。弁護士の立ち会いが認められず、たった1日の審理で合計懲役7年の実刑判決が言い渡された。一方的に国軍側の主張が述べられたうえ一部しか通訳されず、久保田さんは何を言われているのかよくわからないまま審理が進んだ。被告の久保田さんが発言できる機会は一度きりだったという。

 7月30日に拘束された際の状況も過酷だった。デモを撮影した後に歩いていると、車から降りてきた私服の当局者が大声で叫び、銃を頭に突き付けた。「逃げようとしたら撃たれる」と考え、手をあげて無抵抗の意を表したという。

 人権団体の集計によると、ビルマでは依然として1万人以上の政治犯が拘束中。久保田さんが「刑務所で通訳として出会った」と明らかにしている在日ビルマ人の映像作家、テインダンさんもそのひとりだ。国民民主連盟(NLD)政権のアウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領も、拘束されたまま公判が続いている。

 ビルマでは今もひと月に数百人の市民が政治的理由で拘束されている。久保田さんは解放されても、現在の体制が続く限り、同じように不当に拘束される人は後を絶たない。今回、恩赦を行なったとはいえ、国軍が諸外国の説得に耳を貸さなくなってきていることは確かだ。国際社会は国軍支配を終わらせ、民主主義体制に戻すため、あらゆる手段をとる必要がある。

(『週刊金曜日』2022年11月25日号)

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