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移住外国人女性の実情報告 DV被害が多数

神原里佳・ライター|2022年11月19日7:00AM


 日本では1980年代後半から、出稼ぎなどを目的とする外国人の流入が始まり、特に飲食業に従事するアジア女性が増加した。2010年代になると、少子高齢化対策として日本政府が留学生の大量受け入れを実施。さらに、労働力不足を補うため17年に外国人技能実習制度が拡充された。国策として外国人の受け入れが推進され、それに伴い日本で結婚・出産し家庭を持つ女性も増えている。

 だが、言葉や文化が異なる日本での生活や出産、育児などは彼女たちにとって大きなストレスだ。相談する相手もおらず、孤立しやすい。そんな中で、外国人女性によりそってきた団体の一つが、福岡市を拠点にアジアの女性と子どもの人権擁護のための活動に取り組むNGO「アジア女性センター」(以下、AWC)だ。

 11月12日に行なわれた設立25年記念報告会「移住女性たちは、今 ~相談・支援の現場から~」(主催・PP21ふくおか自由学校)では、AWC専任スタッフの柿原理香子さんがさまざまな相談事例を通して、日本に暮らす外国人女性の置かれた困難な状況や生きづらさについて実情を報告した。

報告会で「移住外国人女性への差別や暴力をなくすためには人権意識を高める教育や法整備が必要」と訴える柿原さん。(撮影/神原里佳)

 パートナーからの暴力に苦しむ人も多く、柿原さんによると「AWCへの相談の4割がパートナーとの問題で、うち9割をDVが占めている。身体的・精神的・性的な暴力のほか、出産の強要、中絶の強要もある」という。日本人男性と結婚した外国人女性がDV被害にあう割合は、日本人女性の4~5倍ともいわれ、柿原さんは三つの背景があると指摘する。

 一つは発展途上国出身の女性に対する差別や偏見といった文化的背景。「夫が上、妻は下」などという封建的な日本的価値観を強要される女性も少なくない。二つ目は、在留資格や永住権、親権などを盾に支配関係が生まれてしまうという社会的背景。三つ目が、日本語が不自由なため外部に相談できない、正しい情報にアクセスできないため自分が置かれた状況の異常さにもなかなか気づけないという言語力不足という背景だ。

「外国人女性は就労も難しいため、離婚すると経済的に困窮してしまう。夫がいないと生きていけない。そう思いこまされ、DVを受けても我慢してしまうケースが多い」と柿原さんは話す。

個人ではなく社会の問題

 昨年、DV被害を訴えながら不法残留として逮捕され、名古屋の入管施設で亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの事件は、DV軽視、外国人女性の人権無視といった日本の入管収容制度の闇を浮き彫りにした。この事件をめぐっては、今年1月に出入国在留管理庁がDVに関する措置要領の一部を改正することとなった。

「現代の奴隷制度」といわれる技能実習制度についても、近年、批判の声が高まっている。20年11月、孤立出産の末に死産し、死体遺棄罪で有罪となったベトナム人女性リンさんの事件は報道でも大きく取り上げられた。リンさんは判決を不服とし最高裁に上告。最高裁の判断は未だ出ておらず、その行方が注視されている。

 また、技能実習期間中に妊娠したことを理由に退職を迫られたフィリピン人女性が今年10月、監理団体などを相手取り提訴するなど、泣き寝入りせず権利を求める動きも出始めている。

 これからの日本社会にとって移住外国人は欠かせない存在であり、外国ルーツの第2世代、第3世代もますます増えていくことは確実だ。柿原さんは「移住外国人女性の抱える困難は外国人問題ではなくジェンダー観からくる問題。そして、個人や家庭の問題ではなく社会構造から生まれる問題として考えなければならない」とし、24年4月に施行される「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」にも期待する。

「相談に来た女性たちの中には『日本でずっと暮らしているけど、日本人と話したことがない』『私の話を信じてくれたのはあなたたちだけ』と涙ながらに言う人もいた。それくらい彼女たちは孤立している。そばにいる移住外国人女性に対して、特別なことでなくてもいい、一人ひとりが彼女たちの置かれた状況を想像し、適度な距離感でつながり、少しの親切心で接することを意識してほしい」。柿原さんはそう呼びかけ、「異なる文化、価値観をもつ人々とともに生き、多様性のある豊かな社会をつくっていきたい」と締めくくった。

(『週刊金曜日』2022年11月18日号)

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