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フラワーデモ@広島 広島地裁の性虐待裁判 請求棄却に弁護士ら抗議

小川たまか・ライター|2022年11月18日7:00AM

 性暴力根絶を目指し毎月11日に行なわれているフラワーデモが11月にも全国各地で実施された。今回、広島は、10月に広島地裁で性虐待裁判の請求が棄却されたことから注目を集め、この判決に抗議するため、フラワーデモ発起人で作家の北原みのりさんや原告代理人弁護士らが駆けつけた。

広島で行なわれたフラワーデモでスピーチする北原みのりさん(右から3人目)。(撮影/小川たまか)

 広島地裁に提訴されていた裁判では、40代の女性が70代の父親から幼少期に性被害を受けたことが原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、約3700万円の損害賠償を求めていた。

 女性は保育園に通っていた頃から中学2年生まで性的な行為を強要されていたと主張。父親側は性的虐待については認めたものの、損害賠償請求権が消滅する20年を過ぎていると主張していた。

 10月26日の判決で大浜寿美裁判長は、女性が繰り返し父親から姦淫されていた事実を認めたものの、女性が10代後半から精神的苦痛が生じていたとして「20年以上が経過しているため、女性が被害を受けた当時の民法に照らし合わせると損害賠償請求権は消滅している」と判断。PTSDと診断されたのは2021年で、発症から20年が経過していないとする女性の訴えを退けた。

 フラワーデモでマイクを持った原告代理人の寺西環江弁護士は、被害を受けた幼少期に女性が巧妙に口止めをされたことや、大人になってからも男性への不信感が消えなかった点について説明した後、参加者にこう語りかけた。

裁判について説明し、原告の思いを語る寺西環江弁護士。(撮影/小川たまか)

「裁判を起こしたら、自分が父親からされたことが第三者にわかってしまうのではないかと思うと、不安でたまりませんでした。それでも女性は訴訟提起をしました。自分が被害者であると、社会に訴えたかったからです。自分が苦しい思いをしている原因は、幼い頃に受けた性被害にあると、証明したかったからです。彼女は今、地方裁判所の判断に、打ちのめされています。ハンマーで殴られたような衝撃だと話していました」

 女性は控訴し、裁判は高裁に続く予定となっている。寺西弁護士は「(原告女性の)願いの一つは、少しでも社会が変わってくれること」と話し、自衛隊での性被害を告発し防衛省からの謝罪を引き出した五ノ井里奈さんのケースを例に挙げ「訴え出ることで変わることもある」と強調した。

高裁で逆転判決なるか

 北原さんは、フラワーデモのきっかけとなった19年3月に相次いだ4件の性犯罪無罪判決のうち3件が高裁で逆転有罪となったことに触れ「一歩前進したと思ったらまたこういう判決が出てしまう」「被害者たちが声を上げることによって変えてきた社会の空気は、一気には変わらないということを突きつけられた」と話した。

 その上で、「幼い頃の性被害がどれだけ深刻なものか、まだ司法の中では理解されていない」「一緒に社会を変えていけるよう頑張りましょう」と締めくくった。

 民事訴訟では、30年以上前の性虐待被害について、原告がPTSDなどを発症した時期は損害賠償請求の除斥期間が過ぎているものの、うつ病については期間内であるとして、治療費や慰謝料約3000万円が認められたケースがある(14年9月25日、札幌高裁判決)。

 また、10月に法務省から発表された、性犯罪に関する刑法改正の試案では、公訴時効の延長と、18歳未満で受けた被害については被害者が18歳になるまでの年月を加算し、時効をさらに遅らせる案が盛り込まれている。性虐待については、被害者が被害やその影響を自覚し、人に話せるまでに長い時間がかかる実態があると指摘されているためだ。

 近年、#MeToo運動やフラワーデモなどの流れから、性暴力・性犯罪被害に関する社会の理解が進み、意識は変化しつつある。高裁で逆転判決となるか、その判断が注視されている。

(『週刊金曜日』2022年11月18日号)

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