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政令無視? 支援機構の“暴論”
連載 “日の丸ヤミ金” 奨学金 第13回

三宅勝久・ジャーナリスト|2022年10月30日7:00AM

政令より省令が上位?

 Aさんは非常勤の仕事をしながら細々と暮らしてきた。延滞理由はただ一つ、収入が少ないからだ。何百万円もを一括で払う「支払能力」などない。一括請求は日本育英会法施行令6条3項違反で無効ではないかと裁判で主張した。

 冒頭で触れた通り9月29日の口頭弁論は空転に終わったが、支援機構はこの日陳述を予定していた準備書面(左の写真)を事前にAさんと裁判所に送ってきた。そこには「一括請求は適法だ」との反論が述べられていた。一見してAさんは驚いた。次のような乱暴極まりない内容だったからだ。

〈日本育英会法施行令と日本育英会業務方法書は、いずれも日本育英会法に基づくものの、その法的根拠は別系統といえ、それぞれに優先劣後関係はなく、日本育英会法施行令第6条第3項と日本育英会法業務方法書第14条第4項(並びにそれを受けた日本育英会奨学規程第20条第3項)は、それぞれ異なる要件・効果を定めたものであって、原告は、事案に応じ、上記条項のいずれかを選択し、一括返還請求の根拠とすることができる〉

「支払い能力」の要件を掲げた施行令は無視できると主張する支援機構の準備書面。(撮影/三宅勝久)

 業務方法書や規程には「支払能力」の文言はない。一方、施行令には「支払能力」の定めがある。どちらを使って一括請求するかは自由で、Aさんの場合は規程に従って一括請求した。したがって「支払能力」があろうがなかろうが問題はない、というわけだ。

 Aさんが話す。

「業務方法書は省令、施行令は政令。政令のほうが上位にあるのは常識ではないでしょうか。大学の一般教養で習う内容です。ここまで日本の独立行政法人の質が落ちたのかと、びっくりしました」

 Aさんが指摘する通り支援機構の法解釈は珍説ではないかと筆者も思う。一括請求(期限の利益喪失)の条件を定めているのが施行令で、法令に従って業務を適正に行なうために作成が義務づけられているのが業務方法書だ。業務方法書に基づいて定めた内規が奨学規程と理解するのが常識だろう。

 念のため、筆者は文科省高等教育局学生支援課に取材した。

筆者 法と政令で定めた内容を省令である業務方法書で定めているということでいいか。

文科省 法令で規定されている内容になっているか、法令違反になっていないか。業務方法書は法と施行令にのっとった内容であることを確認した上で大臣が認可している。

筆者 上に法と政令があって、下に省令としての業務方法書がある。そういう理解でよいか。

文科省 そうです。

 貸金業者であれば行政処分モノだろう。だが独立行政法人にはそれを監督する制度がなきに等しい。支援機構を監督するのは、事実上、情報公開や国会、世論の批判しかない。文科省は所管ではあるが監督官庁ではない。

――と、ここまで書いたところで、支援機構広報課から取材に対する回答が10月6日付であった。

質問 施行令に拘束されず、奨学規程(業務方法書)のみを根拠にして、支払能力のない債務者に期限の利益を喪失させた一括請求をすることは可能か。

回答 一括請求をすることは可能と考えています。なお、類似事案に係る訴訟事件において以下の判決がでております。

・一括請求の要件について、日本育英会法施行令第6条第3項が「学資金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠つた(と認められる=筆者注)とき」と定めるのに対し、日本育英会業務方法書第14条第4項では「奨学生であつた者が、割賦金の返還を怠つたと認められるとき」と定める。

・前者が支払能力のあることや怠りの著しさを必要とする一方、後者も怠りが認められることを必要とすることなどに照らすと、両者はそれぞれ異なる要件・効果を定めるものと解される。

 筆者は驚いた。施行令を無視してもよいとの判決があるのだという。いったいどんな判決なのか。説明を求める質問を支援機構広報課に送った。数日して回答があった。「個人情報を含む情報の開示に繋がるため、回答できません」。

(『週刊金曜日』2022年10月21日号)

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