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ネット情報のファクトチェックセンターが発足

楊井人文・ファクトチェック・イニシアティブ事務局長、弁護士|2022年10月18日7:00AM

 ネット情報の真偽の検証を目的とした新たなファクトチェック機関「日本ファクトチェックセンター」(JFC)が10月1日に発足した。グーグルの慈善事業部門から2年間で最大150万ドル(2億円強)、ヤフーからは1年で2000万円の出資を受ける。設立母体となる一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA、中山明会長)が9月28日、発表した。

ファクトチェック情報を発信するJFC の公式サイト「Facts matter.」

 ファクトチェック(以下、FC)記事を発信する編集部には、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)理事を務めつつ、グーグルのフェローとしてFCの講習などを行なってきた古田大輔氏(元「バズフィードジャパン」創刊編集長)が編集長に就任。世界では常勤のファクトチェッカーは珍しくもないが、日本では初めてとみられる。

 日本ではFCの普及が非常に遅れていた。透明性などの基準に基づき審査している国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)には60カ国を超える約120団体が認証を得ている(更新審査中を含む)が、日本はまだ一つもない。一つもないのはG20の中でロシア、中国、サウジアラビア、そして日本の4カ国だけだ。

 2017年、FCの担い手となるメディアを増やし、支援する推進団体FIJ(事務局長は筆者)が発足。連携するネットメディアや新聞社によるFCは徐々に増えてきた。だが、FC専任記者がおらず、ネット空間で増え続ける疑義言説に十分対処できていないという課題があった。

 19年、情報流通に大きな影響力をもつプラットフォーム事業者のあり方を検討するために総務省が設けた有識者会議で偽情報問題とFCも俎上にあがった。そこで筆者も現状を報告し、法規制によらず民間主導のFC活動を促進すべきとの最終報告書(20年2月)がまとめられた。これを受けてSIAに設置された官民連携の「Disinformation対策フォーラム」の提言により、JFCが設立されたというのが経緯だ。

「報道機関対象外」で誤解

 JFCでは憲法学者の曽我部真裕・京都大学教授を長とする運営委員会が設けられ、独自に定めたガイドラインに基づき編集部の活動を評価・監督する体制をとる。設立早々、静岡県豪雨災害で出回った画像の検証など5本以上の記事をメディアプラットフォーム「note」と提携して開設したFCサイトに公開。NHKにも報道された。本格的なFC専門機関として、IFCN加盟を目指す。

 だがSIAの記者発表を受け、古田編集長らJFC編集部の中心メンバー全員が『朝日新聞』出身者であること、検証対象を基本的にSNS上の情報とし、新聞・テレビなど報道機関は検証対象外とする方針が報道されると、ネット上はバッシングの嵐となった。

 中身ではなく、出自や経歴に基づく批判はまったく妥当ではない。これからより多様な人材を集め、結果で信頼を勝ち取っていくことが期待される。

 報道機関が検証対象外と報じられた点は記者発表やJFCのガイドラインが誤解を招いた面がある。内部に訂正機能をもつ報道機関は優先度が低く、編集部のリソースも極めて限界があること等から「原則」対象外とするが、曽我部氏は筆者の取材に「あらかじめどの範囲の報道機関を対象外とするかを決めるわけではない」と語った。新聞・テレビなど報道機関であっても、編集部が必要と考えれば運営委員会と個別に相談しながらガイドラインの基準に従って検証対象を選定する方針だ。

 記者経歴のない市民メンバーを中心としたFC専門の一般社団法人「リトマス」(大谷友也代表)もIFCN加盟を目指して7月に開始したクラウドファンディングを成功させた。FCは厳しい目が注がれがちなうえ、手間がかかり非営利性も求められる。決して割に合う活動ではない。それでもリスクをとり、誤情報に惑わされにくい社会を目指して立ち上がったファクトチェッカーを支えられるか。日本の社会も問われている。

(『週刊金曜日』2022年10月14日号)

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