考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

, , ,

【タグ】

どうなる関電原発マネー事件
検察審査会が「起訴相当」議決

粟野仁雄・ジャーナリスト|2022年9月9日3:28PM

 関西電力高浜原発が位置する福井県高浜町の森山栄治元助役(2019年死去)から関西電力の歴代幹部が現金、商品券、金貨、小判など高額の金品を受領していた問題で、大阪第二検察審査会は8月1日、市民団体から会社法上の特別背任容疑などで告発されながら大阪地検が不起訴にした元幹部のうち森詳介元会長(82歳)と八木誠前会長(72歳)を役員報酬の補塡に関して、前記2人のほか岩根茂樹元社長(69歳)も含む3人を、元経営幹部の個人的な追加納税分を関電が補填した問題に関して、それぞれ「起訴相当」とする議決を公表した。

 この議決により再捜査する同地検が再び不起訴にしても同審査会が再度「起訴相当」と議決すれば、指定弁護士を検察官役として強制起訴される。また、不当な高値で元助役の関係する会社に工事を発注し、関電に損害を与えたとする特別背任容疑などで告発されて不起訴とされていた元役員ら6人については「不起訴不当」とした。

 国税局の調査で、森山氏から関電の歴代幹部83人が総額約3億6000万円の金品を受け取っていたことが発覚した。また、東日本大震災後の原発の稼働停止による経営悪化を理由に電気料金を値上げした際「役員報酬をカットする」として理解を得たが、その裏で森氏ら18人の歴代幹部を役員退任後に嘱託で再任用し、計約2億6000万円の報酬を支払っていた。

 起訴相当の3人について検察審査会は、金品受領問題では八木、岩根両氏を「不起訴不当」としたが、役員報酬の補填については森、八木の両氏を「起訴相当」と厳しく判断。「公共性の高い企業のトップの地位にあった者であり、会社全体の利益や一般の電気利用者の利益を考えて判断すべき立場であったにもかかわらず、自らや身内だけにひそかに利益を図っていた」と非難し、結びでは「強制捜査や関係者からの再度の事情聴取や独自のデジタル・フォレンジック(編注:デジタル情報における法的証拠を解析する、いわば鑑識作業)の実施など、更なる捜査を十分に行なって事実を明らかにしてほしい」とした。

ボールは再び検察へ

 議決を受け、告発した市民団体「関電の原発マネー不正還流を告発する会」は急遽オンライン会見を開いた。代理人の河合弘之弁護士は「大阪地検の手心捜査、手心不起訴に対する市民感覚による痛烈な批判。検察審査会が大阪地検のすべての判断が誤っているという判断をしてくれた」と歓迎した。「不起訴不当」の部分について同じく代理人の海渡雄一弁護士は「強制捜査もしていないし、事情聴取も十分だったか疑問、としている。ちゃんとした捜査をして事件全体を起訴しろ、というもので、検察庁にすべてのボールが投げ返されている」とした。

 問題発覚当初、金品受領について関電幹部は「森山氏が怖くて返すことができなかった。身の危険も感じ、返そうと思っていたがそのままになった」(岩根氏)などと森山氏の「特異な個性」を理由に挙げた。元検事総長の但木敬一氏が委員長を務めた関電の第三者委員会の報告書も「森山氏の恫喝」などを指摘してはいる。しかし少なくとも森山氏は「役員報酬を補填しろ」などと要求していない。

 金品授受はどう見ても贈収賄だが、3人の中では会社法上の収賄容疑で岩根氏が「不起訴不当」とされただけだ。現行では刑法での贈収賄罪は成立しにくい。幹部らはお歳暮、お中元などの名目で森山氏から金品を受けるうち「抜き差しならぬ関係」に陥る。金品贈与を一件一件の工事受注などに具体的に結びつかせない手だった。

 だが森山氏は見返りもなく法外な金品を贈り続けたはずはない。こうした事例が明らかになった以上、刑法における贈収賄罪の概念を見直す時ではないか。

(2022年8月19日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ