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福島県郡山市で学校司書の雇用問題浮上 署名運動始まる

岩本太郎|2022年7月22日8:45PM

 福島県郡山市で学校司書の雇用をめぐる議論が急浮上している。同市ではこれまで市内の小中学校で働く学校司書を各校のPTAが雇用し、保護者が人件費の半額を負担(残り半額は市が補助)する形が採られていた。これを来年度からは市の雇用に改めるとの方針が打ち出されたものの、今度はそれをきっかけとして逆に多くの学校司書が職を失うのではないかといった懸念が広まったのだ。

学校司書業務のDX推進を目指す郡山市の品川萬里市長。旧郵政省出身で放送行政局長などを歴任。(市公式サイトより)

 学校司書をPTAが雇う形態は全国的にも異例だが、郡山市では1950年代後半からこの方式が継続されてきた。ちなみに同市立の小・中・義務教育学校76校中、学校司書を配置しているのは72校に計70人(2021年度)で司書配置率は94・7%。全国平均(小学校68・8%、中学校64・1%=同年度)を上回るトップクラスの数字だ。

とはいえ学校図書館で働く司書の給与を保護者が負担するというあり方への疑問は地元関係者の間でも以前から語られていた。また、各校ごとに児童生徒数は異なり、1校につき約1人となる学校司書の給与を一定水準で支払うとなれば必然的に保護者の負担額(PTA会費に含めた形で徴収)は学校間で差が生じる。近年は少子化に伴う児童数の減少で保護者負担も大きくなり、市の雇用への変更を望む声も上がっていた。

 そうした中で市は22年度限りで前記の補助を打ち切るとともに、23年度からは学校職員を新たに会計年度任用職員(1年契約の非常勤職員)として雇用する方針を表明。まずは今年度から、前記76校中の未配置校だった4校に新規採用した2人の学校司書を配置した。もっとも、この2人はどちらも2校掛け持ちで給与は月額10万円強、さらには他校でそれまで勤務していた学校司書に対して、今年初めから勤務先の学校を通じて「退職同意書」への署名が要求されるようになったことから「これは人員削減ではないか」という疑念が浮上することになった。

 こうした状況を受けて福島県教職員組合郡山支部を事務局とする「毎日学校司書のいる図書館をめざす会」が立ち上がり、(1)図書館教育環境が後退することのない制度設計 (2)雇用継続を希望する学校司書への配慮 (3)各校1人ずつ専任の学校司書を配置できる予算の確保――の三つを市に求める署名活動を4月より開始。事務局の石川謙二さんによれば7月初めまでに教職員や保護者などから8000筆超が集まったという。

【背景に「DX戦略」が?】

 石川さんによると、今回の動きには旧郵政省出身で行政や教育分野のDX(Digital Transformation=デジタル改革)推進に熱心な品川萬里市長の姿勢も反映されているのではないかとの見方が地元では出ているという。同市の今年3月定例会では市学校教育部長が「DX推進による学校図書館の充実を図るための学校司書の配置については、令和4年度の先行実施を踏まえ、今後、検討してまいります」と回答。また会計年度任用職員の新規採用の学校司書2人は夏休みなど長期休暇中は契約外という。そうしたことから、DX推進とも合わせて学校司書の雇用負担を減らせると市は考えているのではないか、というわけだ。

 なお前述の退職同意書については提示された学校司書らから県教組にも相談が持ち込まれたが、現状では学校司書の雇用者はあくまでPTAで学校側には同意を強制する権限はなく「同意したとしても無効だとの確認は県教組の顧問弁護士からも取りました」と石川さんは語る。

 以上の経過を含めて市学校教育推進課に本誌が確認したところ、PTA雇用から市の会計年度任用職員としての雇用に変更する計画については認めたが「業務内容や給与、配置については制度設計を行なっている」、また退職同意書については「出すことをお勧めしますと各校の校長に説明した」(新田泰尋主幹)との回答だった。

「効率化で掛け持ちもできるとか夏休み中は不要とか、学校司書の仕事を理解できていないのでは」と石川さんは疑問を呈する。今後の推移が注目される一件だ。

(岩本太郎・編集部、2022年7月22日号)

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