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報徳会宇都宮病院の驚愕実態とは 
強制入院させられた男性が病院を提訴

吉田明彦|2022年7月2日5:30AM

 何の精神疾患も認知症症状もないにもかかわらず37日間にわたり強制的な入院と向精神薬投与などを受け心身に損害を受けた男性が、報徳会宇都宮病院(栃木県宇都宮市、以下宇都宮病院)を相手に闘う裁判が、6月16日に宇都宮地裁で始まった。

第1回期日に続いて開かれた記者会見で報徳会宇都宮病院の実態を語る江口實さん(右から2人目)。(撮影/吉田明彦)

 訴えを起こしたのは富山市に住む元福祉施設経営者の江口實さん(80歳)。訴状によると江口さんは2018年12月12日午前6時半、突如として土足で乗り込んできた栃木県の民間救急業者(株)関東特殊の男性職員4人に羽交い絞めにされ、同社の救急車に乗せられて、はるか400キロ離れた宇都宮病院に運ばれた。家族間の金銭トラブルが背景だった。同日昼12時すぎに到着した江口さんに認知症機能検査などを施さず、わずか3分の会話で彼を「老年期認知妄想型」精神疾患と決めつけ「酒を飲んで暴れる」などとして強制入院である医療保護入院の措置を進めたのは同病院創始者の石川文之進医師(96歳)であった。

 医療保護入院の決定を下すことが許されている精神保健指定医の資格がない石川氏に代わり決定をしたのは同病院の池田啓子医師だが、同氏は実質的な診察を行なわず石川氏の意思を追認。弁護団が証拠保全をした書類からは、江口さんの到着前の11時6分には精神科に入院とする記録が作成されていたことが明らかになっている。

 江口さんは抗てんかん薬と統合失調症治療に用いる抗精神薬により、ふらついて歩けなくなった。意識が混濁してよだれを垂らす、気力を失うなどの薬の副作用に苦しむことになる。加えて持病のリウマチ性多発筋痛症の薬の処方を拒絶され、江口さんの身体は急速に弱まっていった。この状態は、妻の懸命な救出努力により翌年1月17日に退院できるようになるまでの間続いた。入浴が許されたのは37日の入院期間に3回ほどという、過酷な環境での日々だった。

 裁判の被告は石川、池田両氏と病院長の鈴木三夫氏、医療法人報徳会(関根烝治理事長)である。江口さんは彼らに対し約1400万円の損害賠償を求めている。また同時に監禁での刑事告訴も行なっており、宇都宮地検が6月2日付で受理している。

【ずさんな運営体質】

 さて、上述した石川文之進氏の名を見て驚く人は多いだろう。彼は1984年に発覚し世間を戦慄させた「報徳会宇都宮病院事件」当時の病院長である。前年に看護職員が暴行により患者2人を殺害した事件をきっかけに、無資格職員や入院患者に注射や検査をさせ、患者らを使役させるなどの実態が明らかとなり、石川氏は無資格診療指示の疑いで逮捕。懲役8カ月の刑に処せられ、厚生省(当時)の医道審議会によって医業停止2年の処分を受けた(東洋経済調査報道部による近刊『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』第9章に詳しい)。

 しかし石川氏は間もなく現場復帰し、40年近く経つ今も同病院で「医師・社主」(病院ウェブサイトによる)として診察を続けている。今なお石川氏を擁する宇都宮病院の運営のずさんさと、それに対する宇都宮市の黙認姿勢は、同市の元精神科嘱託医・朝信泰昌氏が2020年7月20日に厚生労働省と栃木県、同市に行政指導を求めて提出した申出書に指摘されていたが、行政は動かなかった(前掲書のほか『毎日新聞』ウェブ版2020年7月21日付「精神科病院『患者に不適切医療』 元宇都宮市嘱託医、行政指導求める 『不要な治療、市は黙認』」に詳報)。

 16日の第1回期日に続いて開かれた記者会見で江口さんは次のように訴えた。

「ここにある分厚い準備書面は正義の書類です。社会のためにもあのような病院はなくなってもらわなければならない。そのために私は顔も名前も出しているのです」

 世界的に特異な収容所型精神医療の存続を許すのか。この裁判はわれわれに厳しく問いかけている。(なお、宇都宮病院には本誌編集部より質問を送ったが、期限までに回答を得られなかった)

(吉田明彦・精神医療サバイバーズフロント関西主宰、2022年6月24日号)

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