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「あいちトリエンナーレ」負担金未払い訴訟で名古屋市敗訴 
河村たかし氏の主張全面的に否定

井澤宏明|2022年6月19日12:23PM

 愛知県で3年前に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の実行委員会(会長・大村秀章知事)が名古屋市に負担金の未払い分約3380万円の支払いを求めた裁判で、名古屋地裁は5月25日、「芸術活動を違法だと軽々しく断言できない」などとして、請求通り全額を支払うよう市に命じる判決を出した。

「表現の不自由展・その後」に展示された「平和の少女像」。(撮影/井澤宏明)

 芸術祭の一部として開かれた「表現の不自由展・その後」は、旧日本軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇のコラージュを燃やす映像などに抗議や脅迫が相次いだため3日目で中断を強いられ、閉幕間際に再開した。

「日本人の心を踏みにじるもの」と批判、展示中止を求めたのが芸術祭実行委会長代行の河村たかし市長だった。閉幕後、元最高裁判事などによる第三者委員会を設置、負担金約1億7100万円のうち未払い分の不交付を決めた。

 市は裁判で、芸術祭は県と市が共催する「公共事業」で、不自由展は多くの鑑賞者に不快感や嫌悪の情を催させる「ハラスメント」性が強く、「反日」に偏っていて政治的中立性を欠き、公共事業としての適合性に著しく反している、そのような展示に負担金を交付することは地方財政法や地方自治法に違反する、などと主張した。

 これに対し、岩井直幸裁判長は判決で、芸術祭は「公的な側面がある催し物であることを否定できない」が、芸術祭実行委が準備や運営を行なっていることから、「公共事業だとはいえない」と判断。

 不自由展について「住民が多様な価値観を持ちながら共存している以上、表現活動に反対意見が存在することは避けられない」と批判側に一定の理解を示したうえで、「芸術活動は多様な解釈が可能なうえ、ときには斬新な手法を用いるので、鑑賞者に不快感や嫌悪感を生じさせる場合があるのも、ある程度やむを得ない」と指摘。「芸術活動の性質に鑑みれば、不快感や嫌悪感を生じさせるという理由で、ハラスメントなどとして芸術活動を違法だと軽々しく断言できない」と市の主張を退けた。

 さらに、負担金を交付すれば作品の政治的主張を後押しする印象を与えかねないと市が主張する「裏書き効果」についても「負担金は個々の作家に交付されるものではなく、参加アーティストや思想信条に対して何らかの見解(肯定や裏書き)を与えると一義的にいえない」と否定した。

【市長「とんでもない」と控訴】

 昨年12月13日に開かれた本人尋問には河村市長自身が出廷し「大村知事から『検閲ではないか』という批判を受けたという話があるが」という岩井裁判長の問いに「検閲なんて誤解ですよ。表現の自由の話じゃないですよ。そんなこと言ったら、オリンピックや名古屋まつり、アジア(競技)大会でも、反日プロパガンダや反日の展示が出てきても、何も言えないんですか、黙っとるんですか。それはおかしいでしょう」と色をなして反論する場面があった。

 不自由展への抗議をきっかけに旗振り役となった知事リコール運動が署名偽造事件に発展した件に続く「全面敗訴」。自身の主張がことごとく否定された河村市長は「とんでもない判決。司法に対する市民の信頼が著しく揺らいだんじゃないか」と5月30日、名古屋高裁に控訴した。一方の大村知事も「署名の偽造・捏造事件も含め、河村氏には説明する責任がある」と追及を緩める気配はない。

 東京藝術大学の毛利嘉孝教授(メディア・文化研究)は不自由展騒動後、「ある種の自粛の雰囲気が広がった」と感じている一人だ。「河村市長をはじめとした政治家が騒いだり、右翼の人が妨害したりしたことで美術館が忖度するというか、政治的なテーマをあまり扱わなくなった、リスクを避けるようになった印象がある」という。

 それだけに今回の判決を「自粛ムードが変わるきっかけになればいい。日本全体がとんでもないことになっているわけではなく、県も裁判所も常識的に判断できると判決は示した。美術業界はグローバルなので、国際的に評価されるのではないか」と歓迎している。

(井澤宏明・ジャーナリスト、2022年6月10日号)

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