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リニア工事問題で市民が国交省の姿勢追及 
調査堀進めぐり高まる不安

樫田秀樹|2022年6月18日6:13AM

JR東海が2027年に東京(品川)―名古屋間の開業を目指すリニア中央新幹線は、各地で作業ヤードや斜坑の建設などの準備工事が進む。だが、その工事の実態に不安を覚えた40人以上の市民が5月10日、東京・永田町の衆議院第一議員会館での院内集会に参加。国土交通省鉄道局に「何か異常があったのでは」と問い質した。

院内集会で国交省鉄道局職員(右)に問い詰める山添拓議員(左)、(撮影/樫田秀樹)

 昨年8月下旬、JR東海は東京都品川区と神奈川県川崎市での住民説明会で「(品川駅に近い立坑の)北品川非常口から300メートルの調査掘進を行なう。そこで起きる振動や騒音を測定し、軽減策を策定して以後の工事に活かす」と説明。10月14日に直径14メートルのシールドマシンを発進させた。リニア計画では都市部での初掘進。初の大深度(概ね地下40メートル以深)掘進、初のマシンでの掘削でもある。工事の完了予定は今年3月末だとされていた。

 ところがその今年3月末時点で、掘進は約50メートルしか進んでいなかった。昨年7月にリニア工事差止を求め民事訴訟を提起した市民団体「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」の三木一彦代表は毎日JR東海のホームページでマシンの現在位置を確認するが、3月末からマシンが1ミリも動かないことに不安を覚えた。

「マシンに何か異常が起きたのでは。その説明がJR東海のホームページには一切ない」(三木さん)

 そこで「住民の会」は山添拓参議院議員(共産党)を通し、リニア計画を管轄する国土交通省鉄道局から情報を得ようと、冒頭の院内集会をもった。ところが、対応に出た鉄道局施設課の東海太郎・環境対策企画調整官の説明は役人答弁に終始した。掘進が遅れている理由を尋ねても「JR東海からは運転操作室を載せた台車の連結や機械点検をしていると聞いています」などと答えるのみ。だが、もともとそういう作業込みで半年300メートルの予定だったのではないか。

 山添議員が「連結ではどういう作業を? 想定外の事情が生じているのではと尋ねたのでしょ?」と尋ねても「JRの工事のすべてを知っているわけではない」として実質ゼロ回答。さらに鉄道局職員が現場を調査していないことも明らかになり、その姿勢に三木さんはますます不安を覚えた。シールドマシンが早ければ2年後には自身が住む田園調布の地下を掘進する可能性もあるのに、国交省が何の情報も得ようとしていないからだ。

 5月27日。JR東海の金子慎社長は定例会見で、掘進が進まない理由として「土をうまくマシン内部に取り込めない」と説明したが、田園調布のある住民は「本当だとしたら、その原因をこそ教えてほしい」と顔を曇らせた。

【大深度で事故、トラブル】

 20年10月18日に東京都調布市でシールドマシンが「東京外かく環状道路」(以下、外環)で陥没事故を起こしたのは周知のとおりだが、看過できぬ事例はまだある。

 神奈川県横浜市栄区で建設中の地下自動車道「横浜環状南線(圏央道)」では、事業者のNEXCO東日本(東日本高速道路㈱)は昨年6月に直径15メートルのシールドマシンを発進させたが、翌月には停止。これについてNEXCO東日本は「モーターの故障」と住民に説明したが、掘削再開は今年2月と7カ月もかかったことで、地元住民は「本当にモーターが原因か」と他の原因を訝っている。

 今年2月25日に外環の大泉ジャンクションを発進したマシンも、4月7日に本線トンネルとの合流区間でマシンのカッターが鋼材に接触して自損事故を起こした。工事再開には半年がかかる予定だ。この事故が深刻なのは前述の陥没事故後に策定した「再発防止策」が講じられた直後に起きたことだ。地域住民は「結局は、住宅街の地下の巨大マシンでの掘削が無理なのでは」と不安を隠せない。

 リニア計画では今年度、愛知県春日井市と神奈川県川崎市からもシールドマシンが大深度発進する。事故が起きるとは断言できないが、少なくとも事業者は住民の不安と真摯に向き合うべきだ。

(樫田秀樹・ジャーナリスト、2022年6月10日号)

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