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関東大震災直後の「福田村事件」を森達也さんが劇映画に

伊田浩之|2022年5月2日4:17PM

 関東大震災の直後、デマをもとにした朝鮮人虐殺が相次ぐ中、香川県の被差別部落の行商団9人が千葉県福田村(現在は同県野田市内)で自警団に惨殺された「福田村事件」を、劇映画にしようと映画監督の森達也さんたちが取り組んでいる。ドキュメンタリーで有名な森さんにとっては初の劇映画で、公開予定は大震災から100年となる2023年。3月31日には東京・渋谷で、クラウドファンディングを盛り上げるためのシンポジウム「なぜ日本映画は負の歴史を描いてこなかったか」が、森さんら関係者7人が参加して開かれた。

3月31日のシンポジウム登壇者。左から井上淳一、荒井晴彦、佐伯俊道、辻野弥生、中川五郎、森達也、小林三四郎の各氏。(撮影/伊田浩之)

 シンポジウムによると、映画制作のきっかけは荒井晴彦さん(本映画企画)と井上淳一さん(同プロデューサー)が19年8月20日、2人がかかわった映画の舞台あいさつから帰る車中で、フォーク歌手・中川五郎さんの「1923年福田村の虐殺」(『どうぞ裸になって下さい』収録)を聞いたこと。24分を超える歌は圧巻で、荒井さんは即座に「これ映画にしようよ」と呼びかけた。

 井上さんがすぐに思い浮かべたのは製作費。自分たちの映画は1000万円規模で作っているが、関東大震災や大正時代の農村のオープンセットなどが必要な本作では1億~2億円必要だと考えたという。荒井さんは多大な製作費がかかるとしても、「知った以上は伝えなければいけないだろう」とも話した。

 中川さんは、森さんが福田村事件について書いた『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(2003年・晶文社)で事件を知り、「何の反省もなく事件から目を背けてきたから、(ヘイトスピーチがはびこる)今の日本の状況がある。事実をわかちあいたいと思った」と語った。

 ある授賞式で、荒井さんが森さんに映画化を考えていると伝えて、森さん自身も企画を温めていることを知り、森監督で進めることとなった。森さんの知名度なら資金を集めやすいとも考えたというが、難航している。

【“普通の人”が事件を起こす】

 森さんは事件を知った当時、テレビ局に企画を持ち込んだがボツになった。「加害者と被害者を分けて、加害者を邪悪で冷酷とするから加害者の側に身を置きたくなくなる。でもオウム真理教の純朴な信者を取材する中で、善良で純朴だからこそ事件を起こしたと感じた。普通の人がある条件が整ったときにとんでもないことをしてしまう。福田村事件もそうです。その構造を見ていないから加害から目を背けてしまう」と、負の歴史から目を背けるメディアの罪について語った。

 脚本を担当する佐伯俊道さんは「当初は殺す側、殺される側、煽りたてる権力側の構造で描いたけど、稿を重ねるにつれて、殺す側も殺される側も同じ人間なのに何かのきっかけで事件になることがわかってきた。一人ひとりの人間を丹念に描くことで、事件の狂気性を描き出すことに(テーマが)絞れてきた」という。

 小林三四郎さん(同配給および統括プロデューサー)は「表現の自由が狭まってきている中、誰かがそれを押し返して表現の幅を広げないといけない。良い仕事をもらった」と話している。

 クラウドファンディング(https://a-port.asahi.com/projects/fukudamura1923/?fbclid=IwAR3mJFl0dCkEWfwq8oJqHTzSTWlqaRltpnFgmoy4i2fN-KvdiAPgAo7dClw)は4月15日から8月12日まで。目標金額は2500万円。中川さんのライブを除くシンポジウムの内容はYouTubeで公開されている。

(伊田浩之・編集部、2022年4月8日号)

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