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“日の丸ヤミ金”奨学金 
「一括請求」、謎の根拠とは

三宅勝久|2022年3月10日6:59PM

支援機構から届いた非開示の「理由説明書」には「悪意ある者」との文言が。(撮影/三宅勝久)

裁判で「一括請求」撃退に成功した奨学金利用者に、さらなる驚愕の文書が。なおも貸しはがしを目論む日本学生支援機構に直接質問をぶつけてみた。

 難病と失業で困窮しているAさんに対し、返還期日がまだきていない約109万円を含む約119万円を全額耳を揃えて払えと訴えた日本学生支援機構(以下、支援機構)。だが「支払能力を無視した繰り上げ一括請求は支援機構法施行令5条5項(注)違反で無効である」と反論されると、途端に訴えを取り下げた。利息制限法や出資法に違反しながら「借りたものは返せ」と居丈高に取り立てた往年のサラ金・ヤミ金を彷彿とさせる。その特徴は、一括請求の根拠である前記5条5項の存在を「隠している」点にある。

 支援機構のホームページやパンフレット、確認書・同意書、返還誓約書などの書類のどこを見ても、返還期日を繰り上げて一括請求することがあるとは書いていても、その根拠である5条5項の説明はない。そればかりか、支払督促申立書や訴状といった裁判所に提出する書面にも、5条5項の条文はおろか、趣旨すら記載がない。「支払能力があるにもかかわらず」著しく延滞した場合に限って一括請求ができる、という条文の構造を説明していない。

「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」と定めた民事訴訟法2条に違反しかねない不誠実な訴訟態度である。

【やっと回答が届いたが】

 そこで筆者は昨年末、支援機構にこう質問をした。

〈支払督促や訴訟における機構の書面を拝見すると、施行令5条5項の記載のなかの「支払能力があるにもかかわらず」という部分がいっさい説明されていません。裁判官や被告を誤認させるおそれがあるように思います。なぜ「支払能力」を記載しないのか、理由をご説明ください。また今後あらためるお考えはないのでしょうか〉

 回答は1月19日にあった。

〈奨学金の返還が困難な場合の制度である返還期限猶予や減額返還制度等について架電や書面による通知、訪問督促等の様々な場面で繰返し案内しており、返還者の方に対しては同条同項の主旨に沿った働きかけが出来ており、必ずしも、「支払能力があるにもかかわらず」という具体的な条文の内容を引合いに出して説明する必要はないと考えております〉

 質問の意味を取り違えたのか、それとも意図的なはぐらかしか。法的手続きのやり方について尋ねているのに「具体的な条文の内容を引合いに出して説明する必要はない」では答えになっていない。

 念のため支援機構中国四国支部の法律顧問とみられる弁護士法人広島総合法律会計事務所にも取材を試みた。「顧問弁護士にも相談している」と同支部は説明した。弁護士名は明かさなかったが筆者の手元には情報公開請求で得た支援機構と同弁護士法人の契約書があり、少なくとも2021年3月までは顧問だったことがわかっている。

「現在も支援機構の顧問でしょうか」。事務所にそう問い合わせた。返ってきたのは「お答えできません」というにべもない答えだった。やむなく1月28日付で支援機構広報課に再質問した。

〈支払督促や訴状といった法的措置の手続き書類のなかで施行令5条5項の内容を正確に記載しないのはなぜか、裁判官や被告を誤認させるおそれがあるのではないか、というのが質問の趣旨です。(中略)お答えねがいます〉

 答えは2月15日付であった。「法的措置の過程では、(中略)個々の事案ごとに適切に対応しているところです」というほとんど内容のないものだった。

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