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奨学金、違法回収に加担する法律家と「日本学生支援機構」の関係とは

三宅勝久|2021年12月24日12:41PM

支援機構と熊谷信太郎弁護士の間で結ばれた顧問契約書。顧問料の金額は黒塗り。

【有識者は利害関係人】

 支援機構のホームページに興味深い資料があった。「奨学金の返還促進に関する有識者会議」の議事録だ。大学や金融関係、機構職員、法律家ら9人の委員が、07年から翌年にかけて6回の会議を開き、回収方法や問題点を議論している。その第3回の会議で「一括請求」について一応触れている(以下、07年12月5日開催「奨学金の返還促進に関する有識者会議」第3回議事録より)

○委員 支払督促申立の通知について、「期限の利益の喪失」の意味を学生及び返還者がどれだけ理解しているのか疑問である。一括で返還しなければならないということを理解していないのではないかと思うが、それに関する周知は、どのように行っているのか。
○機構 採用時に「奨学生のしおり」を配付し、その中で、期限の利益を喪失したときは一括返還しなければならないことや法的処理の手続について説明している。(略)
○委員 期限の利益の喪失による一括返還の可能性について、早い段階ではっきり周知した方がよいと思う。(略)

 一括請求の唯一の法的根拠である施行令についての発言はない。委員の「有識者」には法律家もいる。宗野恵治氏──その所属事務所名を見て筆者は驚いた。熊谷綜合法律事務所。代表者の熊谷信太郎弁護士は支援機構の顧問で、一括請求に基づいた取り立て裁判を多数手がけている。かつては吉村洋文大阪府知事とともに武富士の代理人をしたことでも有名だ。

 なんのことはない。債権回収の議論に加わっていた「有識者」の法律家とは、支援機構と利害関係を持つ弁護士だった。

【「違法」判決に挑戦】

 5月13日、札幌地裁で支援機構の“違法操業”ぶりを認定する判決があった。

 保証人が複数いる場合、負うべき債務額は保証人の数で割った額でよいという「分別の利益」と呼ばれる規定が民法(注)にある。それを知らなかった保証人が、楽ではない生活の中から残債務の全額を払った。後になって気づき、「保証人は2人いたのだから、分別の利益により2分の1を超えた金額は不当利得にあたる」として返還を求めて裁判を起こした。同地裁は2人いる原告らの主張を認め、一人の原告には約17万円、別の原告には約121万円を返還するよう、それぞれ機構に命じた。

 裁判で支援機構は「原告の保証人が分別の利益を援用しない場合、弁済は全額有効だ」(趣旨)と主張したが全面的に退けられた。司法研修所の解釈通りの常識的な判断だった。

 この裁判の支援機構側代理人をしたのが熊谷弁護士と宗野弁護士である。前述した通り、宗野弁護士は「有識者会議」の委員だ。そして同会議では、分別の利益の問題について、一括請求の時と同様にまったく議論していない。

 問題化するのは18年。保証人が分別の利益の援用を主張したにもかかわらず2分の1を超えた返済をさせていたことが発覚、支援機構が非を認めて返金する事態となる。翌19年、「返還促進会議」という宗野弁護士が委員を務める別の会議でようやく議論になる。しかし分別の利益援用の主張がなければ全額回収してよいとする独自の解釈を変えようとしなかった。

 その結果が札幌地裁での敗訴なのだが、これに対して支援機構はなおも不服として控訴し、争う姿勢でいる。分別の利益を知らずに払った原告が悪いのだと言わんばかりの猛烈な回収姿勢である。

 法令軽視のやり方に問題性はないのか。熊谷弁護士と宋野弁護士に取材を試みると、「職務上の守秘義務等の観点から、お答えいたしかねます」と体よく断られた。

 支援機構と契約する弁護士はすべて随意契約だ。選考基準は不明。契約内容も闇の中。情報公開請求で出てきた契約書は金額を黒く塗りつぶした代物だった(上写真)。

 法令遵守に甘く情報公開にも消極的――そんな「優しい」助言者を、支援機構は不自然なくらいに頼りにしている。(つづく)

(注)「分別の利益」に関する民法の条文は以下の通り。
第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
第456条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。

(三宅勝久・ジャーナリスト、2021年7月2日号)

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