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映画『夜明け前のうた』を文化庁が上映中止に 
監督抗議で自ら上映会開催

2021年12月16日4:13PM

 1972年の日本復帰まで沖縄で続いていた、精神障害者を隔離する「私宅監置」と呼ばれる制度の実態に迫ったドキュメンタリー映画『夜明け前のうた』の上映が中止となる事態が各地で相次いでいる。この件に関して12月10日、監督の原義和さんらが東京都内で記者会見を開き、上映中止に抗議する声明とこれまでの事実経過、今後の対応などを公表した。

12月10日の記者会見で上映中止に抗議する原義和監督(中央)。(撮影/岩本太郎)

『夜明け前のうた』は3月から全国の30館で劇場公開され、11月2日には文化庁文化記録映画優秀賞を受賞。同6日には都内でその記念上映も行なわれるはずだった。だが、その文化庁が直前に記念上映を延期(実質的な中止)としたことが一連の事態の発端となった。延期の理由は、映画に登場する精神障害者の遺族から「事実関係が異なる箇所があり、弁護士を立てて映画製作者側に抗議をしている」などの連絡が同庁にあり、「ご遺族の人権を傷つけ取り返しがつかなくなる等の可能性がある」(同庁の報道発表より)。受賞自体は取り消されなかったが、「当事者間の解決」が図られるまで上映を延期するとした。

 同作品に登場する精神障害者はいずれも半世紀以上前に私宅監置されていた人たちだ。大半が故人で写真のみの登場であり、その在住地や名字は伏せるなどの配慮も作中でなされている。ただ、そのうちの一人「金太郎さん」と呼ばれる男性の遺族が4月の沖縄での上映を見て映画館に抗議。同館からの連絡を受けた原さんは以後、その遺族(金太郎さんの子息)2人との交渉を重ねてきた。

 会見での原さんらの説明によると、遺族が問題としたのは主に次の2点である。一つは、金太郎さんについて作中で触れるに際して自分たちへの取材がなかったこと。もう一つは、金太郎さんの長男が故郷の島を離れたことについて作中のインタビューで同島在住の女性が「戻りたくても戻れない。つらいと思う」と、心境を慮る発言をしている場面が「事実と異なる(何度か帰省している)」という点だ。そのうえで遺族は作品から金太郎さんに関連する場面の削除を求めている。

 これについて原さんは記者会見で、まず前者については「取材時に遺族までたどり着けなかった」と説明。当地の人々にはナーバスなテーマゆえ、他の遺族を含めて当時を知る関係者への接触には難航したそうだ。後者については、あくまで当の女性が長男の心情を察して述べた部分で、取材に成功した他の地元関係者らの証言も踏まえたうえで作中にも盛り込んだという。無論、原さんも以上については遺族に説明したものの理解を得られぬまま、同作受賞を知った遺族が文化庁にまで抗議に及んだというわけだ。

【遺族とはなお話し合い中】

 その後、12月1日の沖縄市、同4日の東京都小平市のほか、同月に北海道の日高地方で開催の映画祭で予定されていた同作の上映が相次いで中止となった。前2者は自治体主催の上映会で、沖縄市については遺族から直接連絡があったが、小平市と日高の映画祭主催者にはそれはなかったという(3者とも筆者が各地に問い合わせて確認)。ただ3者とも延期理由は文化庁の方針に則したと思われる内容で「私には事前に意見表明の機会がなかった」と原さんは憤る。

 現在も遺族側との交渉を続けている原さんは「ご遺族と対立するつもりはありません。対立すべき真の相手は私宅監置制度を敷いた日本国家」と語る。そのうえで、遺族の思いも踏まえつつ、続編を製作したいとの意向も表明。ただ、すでに公開された作品の中の抗議を受けた場面の修正については「作品を観た方々を裏切ることになる」として否定した。

 12月19日には、文化庁の主催で11月に上映されるはずだった東京・新橋「スペースFS汐留」で『夜明け前のうた』の上映会と、言論フォーラム「上映中止を問う なぜ隠すのか」が原さんの主催で午後1時半から開かれる(いずれも入場無料)。原さんは今後も、上映中止地区の同じ会場で上映会と集会を自ら開いていく考えだ。

(岩本太郎・編集部、2021年12月17日号)

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