徳島市が前市長に約4億5800万円の損害賠償請求
2021年12月12日2:37PM
徳島市は11月16日、5年前に市中心部の再開発事業からの撤退を決めた遠藤彰良・前市長に対し、約4億5800万円の損害賠償を求める訴訟を徳島地裁に起こすための補正予算と関連議案を12月定例市議会に提案することを発表した。再開発事業からの撤退は、過大な事業費と公的支出を問題視した遠藤氏が選挙公約で掲げ、決定したもの。その決定については「合理的で裁量の逸脱はない」との判決が確定しており、遠藤氏個人への損害賠償請求には市民から疑問の声が出ている。
問題となった再開発事業の区域は、徳島市の新町西地区。市のホームページによれば「JR徳島駅から約500メートルと至近距離にあり、同駅から眉山や阿波おどり会館を結ぶシンボルゾーンに面し、当市の中心市街地の中核を成している地区」という。遠藤氏の前の市長時代に「当該地区の再生とにぎわいの創出を目指し、また、老朽化した文化センターに替わる新ホールを一体的に整備するため」、地権者でつくる再開発組合による再開発事業を支援してきた。
遠藤氏は、総事業費が約225億円に膨れ上がり、徳島市の負担が約181億円に上ることを問題視し、事業からの白紙撤回を公約に掲げ、当選した。選挙では事業を推進する現職に対し、遠藤氏ともう一人の候補が白紙撤回を掲げ、「白紙撤回」候補の得票率は73%に達した。遠藤氏によれば、「市民が白紙撤回を支持したことが明らかになり、市議会もそれが当然だ、という雰囲気だった」という。
市街地の再開発事業では一般的に、開発予定地の地権者などがその権利を新しい建物の区分所有権に変換する「権利変換」を行なう。遠藤氏が当選した後の再開発事業をめぐる経緯は、左の表をご覧いただきたい。徳島市は、組合が申請した権利変換計画を2016年6月に不認可とする処分を決定。事業は頓挫した。
今回の遠藤氏への提訴は、組合へ支払った4億1000万円と訴訟に要した弁護士費用を支払え、というものだ。政策変更によって発生した巨額な費用を首長個人が支払わなければならないとなれば、首長の政策判断に大きな影響を与えるだろう。
徳島市は遠藤氏に損害賠償を請求する理由として、徳島地裁の判決で「前市長が再開発事業から撤退するにあたって具体的な事業変更案や補償の提案をしなかった」ことが、「市長としての不法行為責任を免れない」と説明している。
遠藤氏は「私の不法行為による損害賠償ではなく、適法な行為による損失補償として市が支払うのは当然だ。当時、損失補償について組合と協議しており、裁判で決定するしかないという話になっていた」と話している。
遠藤氏の代理人も「具体的な事業変更案や補償の提案ができなかったのは、不認可処分の適法性について裁判所の判断がなされていない状況で徳島市が具体的な事業の変更案や補償の提案を行なって組合と合意に至ることは不可能だったからだ」と説明している。
(佐藤和雄・編集部、2021年12月3日号)