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検察庁法改正の原点、黒川検事長定年延長の問題点

海渡雄一|2020年5月11日3:05PM

検察内部からも異論

雑誌『FACTA』1月号によれば、稲田氏は法務事務次官だった16年夏、刑事局長の林真琴氏を自分の後任に、官房長の黒川氏を地方の検事長へ異動させる人事案を官邸に上げたが黒川氏を事務次官にするよう強く求められ、押し切られた。官邸は1年後にも林氏を事務次官とする人事を潰し、黒川氏を留任させたそうだ。

検察庁は行政機関であり、国家公務員法の規定に基づいて、その最高の長である法務大臣は、検察官に対して指揮命令ができる。しかし、検察庁法14条は、法務大臣の検察官への一般的指揮権は認めているが、具体的事件については、検事総長のみを指揮することができると定めている。

『FACTA』が述べているとおり、次期検事総長に関する検察庁と稲田検事総長の意見が林氏に固まっていたことは明らかだ。検事総長の任命権者は内閣ではあるが、歴代の自民党政権は、検察庁とりわけ前任の検事総長の意見を尊重し、これに介入するようなことは厳に慎んできた。その秩序が壊されようとしているのだ。

『週刊朝日オンライン限定記事』の「事実上、安倍政権の指揮権発動、法曹界が黒川検事長の定年延長に反発」(今西憲之氏、2月4日)は、黒川氏の任期延長について、自民党のベテラン議員、元高検検事長経験者の弁護士、検察庁内部の現職検事から異論が出ていることを生々しく報告している。

〈黒川氏の先輩にあたる高検検事長経験者の弁護士は怒りをあらわにする。
「定年を延長して、検事総長でしょう。こんなこと聞いたことがない、前例もない。そこまで、政治権力と黒川君は癒着しているのか。見苦しい」
「これは安倍政権の指揮権発動と同等だよ。官邸が黒川氏を検事総長にしろと命令しているようなものだ。官邸、政治権力が検察の人事に口出しすることは本来ならあり得ない」〉

〈ある現役検事も驚きを隠せなかった。
「青天の霹靂ですよ。(中略)延長の理由は逃亡した日産自動車のカルロス・ゴーン被告の対応と説明しています。しかし、ゴーン被告は東京地検特捜部の担当で、東京高検は関係ない。レバノン政府など海外の交渉は、法務省が対応。東京高検が一体、これまで何をしてきたのかと非難轟々です」
「検察内では、官邸のあまりにひどいやり口に、稲田検事総長に頑張れという声が高まっている。官邸に逆襲するためにバンバン、事件をやって検察の威信を見せつけるべきだという人も多い〉
状況だ。

このように、検察と司法の危機は白日の下にさらされ、検察と与党の内部からまで異論が続出している。黒川氏が検事総長に任命されても、その職務を全うすることはむつかしいだろう。それでも、官邸はこのまま黒川氏の検事総長任命まで突き進むのだろうか。

内閣が違法な定年延長を撤回するか、黒川氏が当初の定年のとおり辞職する解決策が最も穏当だろう。この問題は、日本の司法と民主主義の未来がかかった闘いだ。もし、政権も、黒川氏もこのような解決に応じないとすれば、検察の独立を守るために、心ある検察官、与野党の政治家、メディアとともに一大国民運動を作り上げる以外にないだろう。

(海渡雄一・弁護士。2020年2月14日号)

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