雷蔵の『破壊』
小室等|2020年1月1日12:00PM
高良さん御贔屓の市川雷蔵、もちろんよかった。『眠狂四郎』や二枚目としての雷蔵しか知らない向きは、この映画も観てほしい。そうそう、長門裕之もよかった。芥川也寸志の音楽についても、あの時代にすでに今に通じる新しいことにトライしていたと高良さんのリスペクトの指摘、同感。
八六年の記録映画『人間の街 大阪・被差別部落』の音楽を僕が担当した折、舞台となった大阪で、屠畜場に従事する屠畜技術者とよく飲んだ。名人と呼ばれる職人芸と言っていい技術を持った彼は、酔うほどに「解放運動をやっていかなあかんと思うとるよ、そやけどな、自分の娘に、なんでわざわざ自分から部落だと言わせなあかんのか、そこは納得いかんのよ」と涙ながらに語った。
自分の娘の小学校に、屠畜場での仕事について話をするために出向く。解放運動の一環だ。しかし、それが解放運動の方針だとしても、自分の娘に部落を名乗れと親として言えるかと問う。そんなこんなで、少しは知っていると思っていたのに、市川作品『破戒』を観て、人の苦しみや人の痛みにまだまだ自分は届いてないと自覚。
藤村の、折々批判にさらされてきた『破戒』を映画化する監督、俳優、スタッフがいた時代、すごい。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2019年11月22日号)