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安倍政権、次期年金制度改革案は国民の「自助頼り」?

吉田啓志|2019年10月1日3:25PM

【受給開始「75歳でも可」案も しかし普及する保障はなし】

厚生年金は定額の基礎年金の上に報酬比例部分が乗る2階建て。原則、従業員501人以上の企業で週20時間以上働く月収8万8000円以上の人しか加入できず、当てはまらなければ基礎年金のみとなる。そこでオプション試算では、厚生年金加入要件を「月収5万8000円以上の人すべて」に緩めた。これで給付水準(標準ケース)は4・9ポイント増の55・7%になるという。支え手が約1050万人増えるためだ。

だが、中小企業を中心に反発は強い。結局は従業員規模要件をなくすだけ、との見方が支配的だ。それなら給付水準の改善は0・6ポイント増にとどまる。新規加入は約125万人と、就職氷河期世代対策としても心もとない。

試算では、現在20~60歳未満の基礎年金加入期間を65歳未満まで5年延ばす案も示された。これだと給付水準は57・6%。ただし基礎年金の半分は税金で、実現には将来1・2兆円の税財源を要する。調達の見通しは立っていない。

こうした中、有力なのは受給開始年齢を75歳でもいいようにする案だ。受給開始は、現在も65歳を基準に60~70歳の間で選べる。年金額は、60歳からを選ぶと3割減となる半面、70歳からとすると約4割増しになる。これを75歳まで我慢すればさらに上積みします、というわけだ。試算では、もらい始めを75歳に遅らせると給付水準が95・2%に跳ね上がるとした。

とはいえ、これは75歳になるまで厚生年金に加入して働くことが前提だ。試算は70歳までしか入れない厚生年金の加入上限年齢を、75歳に引き上げることを折り込んでいる。長く働いて年金を増やす考え方について、厚労省幹部は「平均寿命が延びているのだから自然なこと」と言い切るものの、「国民の自助に頼りすぎだ」との批判も出ている。

年金は何歳から受け取ろうが、生涯の給付総額には差が出ないよう設計されている。受給前に死ぬリスクを考える人も多く、70歳でもらい始める人は70歳受給者の1%程度。「目くらまし術」を連想させる75歳までの繰り下げが、普及する保障はない。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2019年9月13日号)

 

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