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総裁選でみえた
「沈黙の自民党」
西谷玲|2018年9月9日3:48PM
岸田文雄自民党政調会長が、9月に予定されている自民党総裁選に立候補しないことを明らかにした。これで総裁選は安倍晋三首相と石破茂氏の事実上の一騎打ちになることがほぼ固まった。
岸田氏はずっと出馬を逡巡していたため、こういう展開になることは予想できたものの、首相に自分を高く売ることもできず、やり方としては非常に稚拙だった。
岸田氏が出馬を断念した大きな理由が、かつての師、故・加藤紘一氏による2000年の「加藤の乱」の失敗だったという。森喜朗内閣へ野党が提出した不信任案に賛成しようとして挫折した騒動である。それにより加藤派は冷遇され、総理候補の筆頭だった加藤氏自身もその座につく機会を逸した、とされる。だから権力者に楯突くことはよくない、というのだ。
これは半分正しいが、半分間違っている。加藤氏の盟友だった山崎拓氏の著書『YKK秘録』に詳しい。「乱」の最終局面、国会で不信任案が採決されようとしている最終局面のこと。加藤氏は、派閥の仲間たちに国会本会議に出席するなと言い、自身は盟友の山崎拓氏と2人で本会議に出席し、賛成するのだと宣言する。しかし、そう高らかに述べたくせに逡巡し、行きつ戻りつしたあげくに断念、「乱」は不発、失敗に終わる。
すなわち、闘ったから負けて冷遇されたのではなくて、最後まで闘いをまっとうせず、中途半端にやめてしまったから惨めな結果に終わったのだ。不世出の言語学者にして政治思想家であるノーム・チョムスキーも言っている。「闘わねば権利は失われる」と。
今回、闘わないことを選んだ岸田氏および岸田派の人々が、総裁選後の人事で厚遇されるかどうかはわからない。ましてや、「安倍後」に政権を禅譲されることを期待しての行動だったとしたら、甘すぎるとしか言いようがない。
もう1人、総裁選への立候補に意欲を見せていた野田聖子氏も、立候補できるかどうか非常に危うい。もともと推薦人を集めるのに苦心していたことに加えて、新たな問題が発生した。金融庁への野田氏関連の情報公開請求について、同庁が総務省に情報提供し、その結果、野田氏が得た情報を記者懇談の席で漏らしていたのだ。大臣というか、政治家としての自覚があったのかと疑ってしまう。これでは、推薦人になろうとしていた人々の支持も厳しいだろう。
野田氏は前述したように自前で推薦人がそろえられるかどうか非常に怪しかった。ぎりぎりになっても推薦人が自前でそろえられない場合は、安倍氏や官房長官の菅義偉氏の周辺から忽然と推薦人が現れて、必要人数の20人を埋めてくれるのではないかとささやかれていた。そうすることで安倍氏は一騎打ちではない総裁選を戦うことになり、対立候補の票が分散し、かつにぎやかな総裁選で正統性も得られるのではないか、というもくろみだったらしい。
しかし、モリカケやセクハラなど次から次へとスキャンダルが起こっても、内閣支持率は3割を下回らない。ある時点から安倍氏は自信を得て方針を転換、「推薦人貸し」をしないことにしたようだ。
このまま無風の総裁選を迎えるのか。動向が注目される小泉進次郎氏は黙ったままだ。自民党は本当に沈黙の党になってしまった。
(にしたに れい・ジャーナリスト、2018年8月3日号)