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安倍首相、被災地視察日に一泊20万のホテル宿泊 
災害より総裁選か

横田一|2018年9月6日10:24AM

被災地を視察する安倍首相(手前左)。この後、たった4時間で切り上げ岸田氏との会食へ。8月5日、広島県呉市内。(撮影/横田一)

西日本で記録的豪雨の予報(警報)が出た7月5日夜に赤坂自民亭の懇談会(飲み会)をキャンセルせず、「豪雨災害よりも総裁選対応優先」「初動が遅れた」などと批判された安倍晋三首相が1カ月後の8月5日、広島被災地視察でも総裁選最優先の姿勢を露わにした。現地視察をたった4時間で切り上げて、海沿いの豪華リゾートホテルの高級レストランで岸田文雄政調会長と会食。赤坂自民亭ならぬ“広島自民亭”で総裁選対策に精を出したといえるのだ。

羽田空港を午前11時に自衛隊機で出発。「自衛隊機で点滴を受けながら休養していたのでは?」という健康不安説も頭を過る中、13時前に広島空港に到着した安倍首相はバスで被災地を回ったが、まだ日差しが強い17時5分、「空と海に囲まれたアーバンリゾート」が売りの「グランドプリンスホテル広島」に到着。視察日程表には18時半着とあったため、1時間25分も予定を前倒しにしたことが判明。結局、視察時間は約4時間、バスの移動時間を差し引くと、約2時間にすぎなかったが、泊まったのは「一泊20万円のスイートルーム」(従業員)。そして19時半に安倍首相は、ホテルに駆け付けた岸田文雄政調会長と22階にある「ステーキ&シーフード ボストン」で会食。ここで総裁選などに関する意見交換をしたというのだ。

「総裁選第一・被災者二の次」の姿勢は視察行程を見ると、より明白になる。2日前の3日には石井啓一国交大臣が記者会見で、広島県呉市安浦町の野呂川ダムでルール違反の大量放流について言及し、「県が設置した検討会に国交省職員を委員として派遣し、一緒に検証する」という方針も明らかにしていた。「広島・呉の野呂川ダム検証に職員派遣 国交相、大量放流巡り」(『産経新聞』8月3日付)と報じられたのはこのためだ。

安倍首相は当然、野呂川ダムの放流で被害を受けた下流域の被災住民と面談して、「ルール違反のダム放水操作で被害が出た可能性があり、検証で『人災』という結論が出たら補償金をお支払いします」といった説明をするに違いないと思った。

しかし安倍首相は、最後の視察地の呉市吉浦町からわずか10キロ先のダム下流の被災現場(JR安浦駅周辺)にまで足を延ばさず、現地視察を続けることが十分に可能な17時すぎに“広島自民亭”のあるホテルに駆け込んだのだ。

【石破氏と災害検証論戦か】

しかも野呂川ダムの下流域の水害も、高梁川水系のダムの下流域の岡山県倉敷市真備町地区と同じように、「安倍首相の初動の遅れが招いた人災」という可能性がある。今回の西日本豪雨災害では、広島・岡山・愛媛の3県すべてでダム緊急放流の時に下流域で氾濫被害が出たことから、“ダム異常放水起因説”(本誌10日号で紹介)が浮上していた。「5日夜の赤坂自民亭への出席をキャンセル、すぐに非常災害本部を設置して『ダム事前放水(貯水率低減)』を指示していれば、被害を避けられたのではないか!?」という疑問の声が岡山県高梁市の被災者から出ていたが、広島や愛媛でも同様の見方をする被災者は少なくなかったのだ。

安倍首相の視察の4日後の9日、広島県の検討会(委員長は土田孝広島大学大学院教授)の初会合が開かれたが、配布資料の野呂川ダムの放流データをみると、初動の遅れによる人災説を物語る推移になっていた。ダムを空に近づける事前放流をすることが可能な時間帯があったのだ。

総裁選に出馬表明した石破茂・元地方創生大臣は今回の西日本豪雨災害を受けて「防災省の創設」を提唱。この提案を、河川政策の専門家で日本初の流域治水条例を制定した嘉田由紀子・前滋賀県知事が高く評価。7日の真備町地区の視察の際には、「防災省があれば、記録的豪雨の予報が出たのを受けてダムの事前放流を指示できただろう」と語った。「安倍首相の初動の遅れによる人災だったのか」という豪雨災害の検証と防災省創設の是非が、総裁選の争点の一つになりそうだ。安倍首相と石破氏の論戦内容が注目される。

(横田一・ジャーナリスト、2018年8月24日号)

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