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金利操作に名を借りた安倍政権の延命策(高橋伸彰)

高橋伸彰|2018年3月1日7:00AM

誰のための金融政策なのか。(写真:アフロ)

2月2日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均は前日比665ドル安と、9年2カ月ぶりの大幅下落となった。この原稿が活字になる頃は再び上昇しているかもしれないが、トランプ政権誕生後ほぼ一本調子で上昇を続け、世界的な株高をリードしてきた米国の株価急落は安倍政権にとっても対岸の火事では済まない。

実際、株高、円安をエンジンにしてロケットスタートした安倍政権にとって株価は政権の命運を握る生命線でもある。名目GDP(国内総生産)や有効求人倍率がいくら過去最高を記録しても、株価が失速すれば批判が噴出するのは必至だ。そのことは官邸執務室に設置された株価ボードをアベノミクスの成績表のように眺めてきた安倍首相も承知しているはずだ。

同じことは日経平均が1万5000~6000円台で低迷していた2016年7月の金融政策決定会合で、ETF(上場投資信託)の購入額を年3.3兆円から6兆円に倍増し、世界的にも異例の株価対策を講じた日本銀行の黒田東彦総裁にも言える。5年の任期満了を間近に控え再任説が浮上するなかで、株価下落は明らかにマイナス材料だ。

年明け1月18日に日経平均が2万4000円台と26年2カ月振りの高値を付けた後も、ETFの購入は減額しないと黒田総裁が言明したのも、株価が下落に転じれば「実感なき回復」というアベノミクスの本質が露見するからだろう。

昨年末から日本の経済誌や週刊誌は、こぞって日本株は暴騰必至と煽り個人投資家の買いを誘ってきた。確かに、ゼロに近い金利の銀行預金で資産の過半を運用する家計が、目前で上昇を続ける株に惹かれても不思議ではない。

しかし、株は買値より高く売らなければキャピタルゲイン(資産売却益)を得られない。また、預金の利回りより株の配当率が高くても、株価の変動率は配当率よりもはるかに大きい。だから、いくら煽られ惹かれても新規に株を買う個人投資家はきわめて少ない。それは株式や投資信託を保有する日本の家計比率は全体の約1割未満(米国でも同15%程度)に過ぎないという資産運用の実態に現れている。

『日本経済新聞』(2月3日付夕刊)は、米国の10年物国債の利回りが「一時2.85%と約4年ぶりの水準に上昇した」ことが、冒頭の株価急落の一因だったと言う。ただ、一部の裕福な家計には株価下落が悲報でも、安全優先で資産を運用する多くの家計には長期金利の上昇は朗報だ。

この金利上昇を米国の連邦準備銀行(FRB)は容認する。トランプ景気への配慮よりも、景気の実態を反映した金利上昇で緩和策からの出口を探るほうが、将来の景気後退に備えて政策の幅を広げる上で重要だと判断するからだ。

これに対し日銀は株安、円高への影響を懸念して2月2日の午前に指し値オペ(利回りを指定して国債を無制限に買い入れる公開市場操作)を実施。国内金利の上昇を抑えようとしたが、穿った見方をすれば金利操作に名を借りた安倍政権の延命策に他ならない。その影で苦しむのは出口の見えない異例の金融緩和で利子所得を失い続ける多くの家計である。誰のための金融政策なのか。あらためて日銀に真意を糺す時を迎えている。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2018年2月9日号)

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