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世界難民の日、日本に暮らす難民を考える――入管前で「パパを返せ」コール

2016年7月6日10:15AM

生後10カ月の子を連れたスレイマンさんの妻(左後ろ)。前列右の子は6歳。(撮影/編集部)

生後10カ月の子を連れたスレイマンさんの妻(左後ろ)。前列右の子は6歳。(撮影/編集部)

「パパを返して!」

日本で11年暮らすクルド人(少数民族)男性ユージェル・スレイマンさん(31歳)の解放を求める親子らの叫びが、東京・品川の東京入国管理局前に響いた。この日6月20日は、世界難民の日。難民と認められずに収容されている仲間の解放や難民認定などを求めて、東京入管周辺でデモ(主催・仮放免者の会)が行なわれた。約300人(主催者発表)が参加したが、半数ほどはクルド人だった。

仮放免者の会の宮廻満事務局長によると、今年に入ってから、「仮放免」(退去強制令書が出され収容されている途中で、病気などにより収容を一時的に解かれること)で何年も日本に暮らしていた人が、再収容されるケースが増えている。クルド人の再収容も増えたが、とくにトルコからの難民であるスレイマンさんは2005年に日本で難民認定されず退去強制令書に基づいてトルコに帰った際、現地で「政治犯」として捕まった人物でもある。それにもかかわらず同年の再来日後も難民と認められず、異議申し立てをしたが却下され、6月15日に収容された。多くのクルド人が集まった背景には、この不条理への怒りがある。最近再収容されたほかのクルド人の家族や友人らも入管前で怒りの声を上げた。

法務省は昨年9月、「真の難民の迅速かつ確実な庇護を推進するため」として、難民認定制度の運用の見直しを発表しており、これを再収容者増加の理由とする見方も出ている。だが難民条約締結国の中で難民認定率が最低水準の日本に、「真の難民」如何を問う資格があるだろうか。昨年は難民申請者7586人のうち27人のみが難民認定された。内戦下のシリアからの難民ですら、そのほとんどは日本で難民と認められていない。

仮放免となっても、実に不安定な立場に置かれる。彼らは逃亡していないかの確認のために、通常1~2カ月ごとに入管に出頭する。在留資格がなく、国民健康保険にも入れないため、医療にアクセスしにくい。親が仮放免だと、その子どもも仮放免となることも問題で、デモに参加した定時制の高校に通うクルド人男性は、「インフルエンザにかかったときも、胃腸炎になったときも、(国民健康)保険がないので病院に行けず、床に転がって我慢するしかなかった」と話した。仕事もできず、苦しい生活を強いられる上、いつ再収容されるかとの不安もつきまとう。

【「人間扱いされない」】

収容中も、常勤の医師は不在で医療環境は悪い。今年3月末に東京入管に再収容されたクルド人男性は、「胃が悪くて1カ月前に倒れた。でも病院には連れて行ってもらえなかった。僕たちは人間の扱いをされない」と吐露した。被収容者の家族らのストレスも大きく、前出のスレイマンさんの妻は「子どもが3人もいる。私ひとりでどうやって生活していけばいいの」と訴えた。「パパを返して」とのスレイマンさんの子どもの叫びに、入管職員が「何もしてないのに捕まる(入管に収容される)はずがない」と応酬し、「パパは悪いことしてない。難民と認めてもらえないだけ」と子どもが涙する場面もあった。鈴木たつお弁護士は、「どういう基準で収容されるのかはっきりしない部分が多い。難民行政全般が法務省のさじ加減で決まるというひどい状況だ」と批判した。

4月には仮放免中で子どもの親権を得るため調停中でもあったモロッコ人男性が焼身自殺を図り、その後5月に死亡する事件も起きた。男性を支援していた日本人男性は、「ストレスを抱えていない仮放免者はいない。その上、彼の場合は子どもに会えないという大きなストレスがあり、それが追い打ちをかけたのではないか」とした。

難民の日に先立つ6月18日には「世界難民の日企画 たこくせき☆交流会」(主催・SYI〈収容者友人有志一同〉)が東京都内で開かれた。難民の子どもたちによる演劇では、家族の生計のために若くして結婚する子どもの姿などが描かれた。台本を描いた織田朝日さんは、「これまで見てきた難民の現状を織りまぜて描いた。生活が貧しく、学校ではいじめられるのでドロップアウトしてしまい、学校をやめて働き出す難民の子どもも多い」と窮状を話した。

(本誌取材班、6月24日号)

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