考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

誰の責任? 設置はわずか4市町村――幻に終わった「共通投票所」

2016年7月4日10:47AM

18歳選挙権と並び、6月19日施行の改正公職選挙法の目玉だった「共通投票所」。最寄りの投票所とは別に、駅やショッピングセンターに投票所を設けて投票率をアップさせようというのが目的です。法律成立時、メディアも夏の参院選から「駅で投票できるようになる」「期日前投票が最大2時間延長され22時まで」などと、便利になるとの大合唱。「へえ、そうなんだ」と感心した人も多いはず。

しかし、22日に公示された今回の参院選で「共通投票所」を設置したのは、驚くべきことに全国1741市町村のうち、たったの4市町村だったのです。その市町村とは、北海道函館市(6月現在の有権者約23万人)、青森県平川市(同約2万7000人)、長野県高森町(同約1万人)、熊本県南阿蘇村(同約1万人)です。ここで湧く疑問は、逆になぜその4市町村だけが実施可能になったのだろうか? ということです。

【費用がネックに】

共通投票所設置のネックになったのは、インフラです。現在は、投票入場券がなくても選挙人名簿に名前があれば有権者は投票できる仕組みとなっています。つまり、別に設けられた駅などの場所で投票する際に、指定された最寄りの投票所と通信回線が結ばれていなければ投票がされていないかどうかの確認が取れず、二重投票を防ぐことができません。

しかし、市町村の全投票所にその通信回線を整えるには別途費用がかかります。助成金があるとはいえ、もともと選挙においてのシステムの構築にはかなり地域差があり、費用面でも人手的にも地方自治体にこれ以上の負担を求めるのはかなり難しかったのです。つまり、この「共通投票所」の話は、まさに絵に描いた餅でした。ちなみに、今回このために計上されている予算はトータルでわずか1億9300万円とのことです。

では、各市町村は費用をどのように捻出しているのでしょう。函館市選挙管理委員会に電話で尋ねてみると、函館市で「共通投票所」が実現できたのは、きわめてシンプルな理由だったのです。

答えは、期日前投票では既存のシステムを利用し、投票当日は共通投票所からその選挙人の最寄りの投票所に「電話などで確認する」というものでした。そのため、新たにかかる費用もシステムに要するものと電話代や人件費などトータル100万円以内だったとのこと。大都市ではなく、今回4市町村で実施できることになった理由は、皮肉なことに有権者(投票所)が少なければ少ないほど、全投票所を通信回線で結ぶ経費などがかからず、実施しやすいからなんですね。

南阿蘇村の場合、今回の参議院選挙では、前回17カ所設けていた投票所が震災の影響で3カ所となり、そこが今回「共通投票所」を兼ねるそうで、この場合、数に入れていいものかどうか微妙です。

長野県高森町は共通投票所が1カ所、指定投票所8カ所。総務省頼みではなく、早くから独自に予算を組み準備を進めていたという意識の高い自治体ですが、時間的な問題で結局、総務省の補助金を使うことになったそうです。かかった費用は167万8320円。

こうして考えると、有権者が少ない地域での設置は多少増える可能性はありますが、国がさらなる財政措置をしない限り、大幅な拡大は期待できません。有権者が多い大都市ほど費用がかかるため実施が難しくなるでしょう。

改正公選法では、共通投票所を実施するかどうかは「自治体の判断」となっていますが、選挙という国の根幹に関わる重要なことがすべて地方任せでいいものなのでしょうか。「投票率アップ」のためというのであれば、まずやるべきことは、「特別な事情」のない投票時間の繰り上げを認めないことです。本誌6月10日号でも指摘しましたが、全国35%の投票所が投票時間繰り上げをしている中、その対策をとらず、自治体の負担増となる「共通投票所」を増やそうとするのは本末転倒ではないでしょうか。

(三宅雪子・元国会議員、6月24日号)

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ