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与那国住民らは“工事差し止め”求めて即時抗告――自衛隊配備でずるずるの防衛省

2016年2月1日10:25AM

琉球弧、つまり奄美諸島や沖縄県全域の軍事問題は米軍にかぎった話ではない。防衛省主導の自衛隊配備計画も、生態系や住民生活に深刻な実害をきたしているのだ。

防衛省の真部朗整備計画局長は1月13日の衆院安全保障委員会で、陸上自衛隊配備に伴う先島(宮古・八重山)諸島へのヘリ部隊配置計画を明らかにした。防衛省は昨年5月11日に下地敏彦宮古島市長へ、11月26日に中山義隆石垣市長へそれぞれ配備方針を伝えたが、このときは警備部隊・地対空誘導弾部隊・地対艦誘導弾部隊の3部隊配備のみを伝達していた。

ところが13日に赤嶺政賢衆院議員(日本共産党)が質問したところ、真部局長はヘリ部隊配置も「白紙的に検討している状況」とした。地元では「ずるずる計画規模を拡大する気か」と、不信感が高まっている。

ちなみに防衛省整備計画局は昨年10月に新設された機関だが、前出の真部局長は、過去に沖縄防衛局長を務めた経緯がある。真部氏は沖縄防衛局長だった2012年、自民・公明などが推した佐喜眞淳氏と、共産・社民・沖縄社会大衆各党が推薦した伊波洋一氏が出馬した宜野湾市長選挙において、同市内に居住する職員らを対象に投票を呼びかける講話を行なった。沖縄防衛局も有権者が職員の親族にいるかをリストアップし、投票呼びかけなどをしていたことが判明。「政治への不当介入」として当時は問題視されたが、防衛省は真部氏を訓戒処分としたのみだった。

中谷元防衛大臣は13日に「市長さんをはじめ地元の住民・地権者の方々のご理解とご協力をいただくべくですね、よく相談しながら丁寧に進めている」などと答弁したが、この点も実態は怪しい。

宮古島・石垣両市において、全住民を対象とする行政側の「説明会」はいまだに開かれていない。また、昨年12月2日までに防衛省が石垣市に提示した全資料を本誌が求めると、沖縄防衛局は用紙2枚を開示しただけ。こうした半面、石垣市では昨年12月14日に防衛官僚と地元の建設業界人らが市内ホテルで面会し、建設工事に関する入札・契約制度の意見交換をしていたことがわかった。当日は(一社)沖縄県建設業協会八重山支部の定例役員会後、防衛省の渡邉一浩大臣官房施設監、茂籠勇人整備計画局施設計画課契約制度企画室長、沖縄防衛局の沼尻邦男調達部長、木村泰和調達計画課長らが八重山支部の役員らと接触していたのだ。県建設業協会の黒嶋克史支部長は、昨年10月26日発足の石垣島自衛隊配備推進協議会(三木巌会長)で副会長を務める人物だ。

【住民側から強まる反発】

ごく一部の利権関係者が優遇されるなか反発の声が強まっている。

人口1490人(昨年12月時点)の与那国町では陸自沿岸監視部隊配備に伴う基地建設が進むが、島外の工事業者らが常時航空券等を買い求めるため、とくに那覇―与那国間を結ぶ交通機関はパンク状態にあるという。建設現場からは赤土等が流出し、希少植物の保全も危ぶまれる。計画で設置予定の陸自監視レーダー(電磁波等)が生体に及ぼす影響さえ不明だ。

同町の住民30人は昨年6月1日、国に建設差し止めを求める仮処分を那覇地裁石垣支部に申し立てた。住民らと専門家による調査を踏まえ、配備計画が憲法等の保障する平和的生存権や人格権、さらにプライバシー権を侵害すると訴えたが、那覇地裁(森鍵一裁判長)は昨年12月24日、工事を差し止めなければ戦争等の武力衝突が避けられなくなるという疎明資料がない、などとして却下した。1月7日、福岡高裁に即時抗告した住民らの代表で医師の上地国生氏は、「裁判所は私たちが提出した実証を考慮せず、国の言い分を重視した。司法も国の番人と化しているが、100に1の可能性に賭けたい」と語る。石垣市では平得大俣が配備候補地とされるが、近隣の開南・嵩田・於茂登の3地区の住民は計画への断固反対を表明。1月15日、「農村地域の環境を破壊する」などと訴える中谷防衛相宛ての抗議文を、市職員に手渡した。

(内原英聡・編集部、1月22日号)

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