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教育勅語を水平社宣言で読み破れ(佐高信)

問題の森友学園理事長の籠池泰典が、
「教育勅語のどこが悪い?」
と叫ぶのを見ながら、私は『橋のない川』(新潮文庫)の作者、住井すゑの次の提言を思い出していた。

「教科書に一つの方法として『教育勅語』と『水平社宣言』を並べて印刷し、表紙をめくったら『教育勅語』がある。その次には『水平社宣言』があるというような教科書をつくったらいいんじゃないか。どっちが人間的であるか、どっちが人間的真実を訴えているか、どっちがより人間的哲学を生かしているか、一目でわかると思うんですね。『教育勅語』をむざむざと葬ってしまって、今の子どもが知らないというのも、ある意味ではマイナスですね。明治、大正、昭和の敗戦まで、このような教育の名のもとに調教をやってきたんだということをくり返しくり返しみんなで反省する必要があるんじゃないかと思いますね」

「朕惟フニ我カ皇祖皇宗」の教育勅語と、「全国に散在する吾が特殊部落民よ団結せよ」で始まり、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と結ばれる水平社宣言を並べて教えよという住井の主張を生かさなかったから、いま復讐されているとも言える。

いいものだけを教えてきた弱さ、いいものを悪いものとの比較に於て教えなかったもろさが、いま、出てきた。

「昼の光に夜の闇の深さがわかるものか」と言い放ったのはニーチェだが、闇との対比に於てこそ、光は意味をもつのである。そのことを住井はよくわかっていた。

住井すゑにお礼を言った児玉誉士夫

住井と永六輔の『人間宣言』(光文社)に「いい話」がたくさん出てくる。

亡夫の犬田卯の遺骨を持っていらっしゃるそうですね、と永が問いかけると、
「これね、遺骨にしてそれを地下へ埋めるということは忍びないですよ、できないですよ。だから書斎の簞笥のいちばんいい場所にあります。もう何十年もたちますけれども。ときどきは骨をかきまわしてやってます」
と住井は笑い、
「ぬかみそじゃないんだから」
と永がまぜっ返すと、
「好きな男の骨なんだもの、ときどきさわって話しかけるっていう意味よ」
と住井は答えている。

『橋のない川』のモデルは水平社宣言の起草者、西光万吉だといわれる。西光はその後、転向したが、住井との深い信頼関係は崩れなかった。

住井が西光の家を訪ねると、西光の妻は仏間に並べて二人の布団を敷き、住井と西光は遅くまで語り合ったという。

あれほどはっきりと天皇制廃止を主張しながら、住井のところには不思議に右翼が糾弾に来なかった。それについて住井は、
「私は来るのを待っているんですがね。もし来てくれれば帰りには左翼にして帰しますから」
と笑っていた。

永との『人間宣言』によれば、『橋のない川』の第四部を発表した段階で、右翼の親玉の児玉誉士夫が、
「いい小説を書いてくれてありがとうございました」
と言ってきたとか。

そして、それから住井が上京するたびに、外車で迎えに来て、乗ってくれ、という。右翼の世話になる気はないからと断ってタクシーに乗ると、護衛のつもりか、その車がついてくる。

そういうくらいだから、住井によれば右翼は、
「土産は持ってくるけど、文句はいってこない」

多分、住井の迫力に気押されたのだろう。

そんな住井を偲びつつ、娘の増田れい子は棺に住井の大好きだったキャラメルを入れたという。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、3月17日号)