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狩猟民族の眼の凄さ──カナダ=エスキモー3(本多勝一)

追いつめられたカリブー群の中で、負傷した1頭が動けなくなった。

カナダ北極圏メルヴィル半島のカリブー(トナカイの一種)は、地元のイニュイ(俗称エスキモー)たちにとっては重要な主食である。肉も狩猟動物の中で一番うまい。

この写真は1963年5月末の、北極圏としては比較的あたたかい日の“風景”だ。3人のエスキモーたちのカリブー猟に同行した私たち(『朝日新聞』の藤木高嶺記者と私)は、かれらの犬ゾリに乗ってメルヴィル半島の奥地へと進んだ。

40キロメートルほどはいった谷の丘で狩猟リーダーのイスマタが、18世紀の戦争を思わせるような古い望遠鏡で30分間ほどのぞいたけれど、カリブーは見えない。この日は谷間におりてテントを張った。気温はマイナス13・5度。

翌日はカリブーの凍った生肉で朝食をすませると、出発1時間後、小高い岩に寐そべったイスマタが、望遠鏡をのぞきはじめた。「タクビ(見えるか)?」と聞くと、彼は大きくうなずいた。「カシニ(何頭)?」──こんどは両手で8本の指を出し、ニヤリと笑った。
ところが、その方角を私がのぞいても分からない(私の視力は1・5)。イスマタもカリブーを望遠鏡の視野に入れて固定してくれたが、それでもダメだ。狩猟民族の眼の凄さは聞いていたが、こんなに差があるのか。(敬称略)

(ほんだ かついち・『週刊金曜日』編集委員)

※この記事は現在、本多編集委員がかつての取材をもとに『週刊金曜日』に毎週連載しているものです。カナダ=エスキモーの連載は1963年に『朝日新聞』に掲載され、後に単行本や文庫本にまとめられています。