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国が結婚・出産を強要?
「だから結婚できない」「お持ち帰り」指導……
「官製婚活」の現場はセクハラ三昧(斉藤正美)

2017年2月1日4:10PM

地縁を活かした縁結びの取り組みに賛同する企業を、「縁結び企業さん」として展示する福井県庁。(撮影/斉藤正美)

地縁を活かした縁結びの取り組みに賛同する企業を、「縁結び企業さん」として展示する福井県庁。(撮影/斉藤正美)

近年、安倍政権が膨大な国家予算を投入し、お見合いや婚活セミナー、婚活パーティーなどの「官製婚活」を全国で繰り広げている。「官製婚活」の現場で何が起きているのか、取材した。

「プロポーズ。イイエと答えちゃいけないの?」

「プロポーズ。ハイかYESで、答えてね」。福井県庁を訪れると、1階の入り口には、ブーケを持って微笑む女性の横にこのフレーズが書かれたポスターが、パネルになって飾られていた。「ふくい結婚応援企業が100社到達!」という言葉とともに、ポスターの周りを企業名が取り囲み、ハートの折り紙も散りばめられている。

福井県は、安倍政権が2013年度以降から毎年全国の県や市町村にばらまいてきた「地域少子化対策強化交付金」(以下、「交付金」)の“恩恵”を受け、「職場の縁結びさん」と称する「婚活メンター」(サポーター)の企業・団体内への設置を15年度から推進してきた。全国に先駆けて、10年度から自治体主導の「地域縁結び」を導入してきた県なのだ。

しかし、自治体主導のもとで職場を挙げて結婚を後押しするような環境が醸成されれば、結婚したくない人や、子どもをほしくない人、子どもができない人、LGBTなどの性的少数者は追い詰められるだろう。「個人の自由」の侵害にもつながる。だが福井県庁女性活躍推進課の担当者は、そうした点には頓着せず、「合コンによって、社員のコミュニケーション力を上げることになる。結婚すると会社に対する忠誠心というか、真剣度が上がる。人口減少に歯止めをかけることで社会貢献ができる」ことをメリットだとして語った。

セクハラ的指導の実態

これは福井県に限ったことではない。現在、高知県、愛媛県などをはじめ全国で「官製婚活」事業は進められている。たとえば富山県は「交付金」を受けて、14年10月から「とやまマリッジサポートセンター」(以下、「センター」)という結婚支援事業をスタートさせた。「センター」は、富山県庁の地方創生推進室が富山県法人会連合会に運営を委託。コンピュータによるマッチングシステムを導入し、会員制のお見合いや婚活セミナーを実施している。この事業には15年10月から総計4000万円の税金が投入されているが、今年1月現在、成婚数は総計でたったの19組である。

さらに、複数のセンター利用者に取材すると、利用者がセンターの運営に改善を要求した際に「そんなことだから、あなたは結婚できない」と言われたり、婚活セミナーで(女性を)お持ち帰りしてください」とセクハラ的指導をされたという証言が出てきた。行政の関わる事業として疑問を持たざるを得ない実態が浮かび上がってくる。

また、民間の婚活業者では考えられないような、個人情報の杜撰な扱いがうかがわれる証言もあり、センター側もその事実を認めた。

算出法不明の不可解な「企業子宝率」

福井県や富山県は、全国に先駆けて「企業子宝率」調査を導入したことでも知られる。企業子宝率は、従業員(男女問わず)が企業在職中にもつことが見込まれる子どもの数で、少子化対策やワークライフバランスの研究者、渥美由喜(あつみ なおき)氏が04年に考案した。 現在、福井や富山をはじめ、静岡や山形、佐賀、鳥取など10以上の自治体が企業子宝率を利用している。

しかし、この指標は従業員のプライバシーの侵害の恐れが指摘されており、肝心の算出方法の核心部分もわかっていない。外部からの専門的な検証ができないのであれば、数値の再現性は担保できず、これほど広範囲の自治体が使う指標としては、信頼性を損なう。

渥美氏や自治体は「知的財産」だとしてこの算出方法を開示しないが、筆者が調査したところ、「知的財産」に登録されていなかったことが判明した。
(さいとう まさみ・富山大学非常勤講師。専門は、社会学、社会運動研究、メディア研究)

※その驚くべき実態の詳細は、『週刊金曜日』2017年1月27日号に掲載されています。電子版ご希望の場合は、下記のアプリ

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