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東電事故、子どもの甲状腺がんまたは疑い173人に――当時5歳の子どもも発症

2016年7月5日11:34AM

前列左が清水甲状腺検査評価部会長。同右端が星座長、6月6日記者会見にて。(撮影/まさのあつこ)

前列左が清水甲状腺検査評価部会長。同右端が星座長、6月6日記者会見にて。(撮影/まさのあつこ)

東京電力の福島第一原発事故時に18歳以下だった子どもの甲状腺がん、またはその疑いは173人となった。6月6日に開かれた福島県「県民健康調査検討委員会」(座長:星北斗福島県医師会副会長)で分かった。その内訳は、「先行調査」(2011~13年)と呼ぶ1巡目で116人(事故時6~18歳の男39人、女77人)、「本格調査」(14~15年)と呼ぶ2巡目で57人(事故時5~18歳の男25人、女32人)である。

星座長は、「数が増えていることに対して県民の不安が増えている」と認識しながらも、「放射線の影響について分からないが考えにくいというスタンスについて変わりはない」と記者会見で語った。

ところが、「変わりがない」のは見解だけで、根拠との乖離はますます激しくなっている。

【「潜伏期間」の再変更か?】

第一に、今回新たに明らかになった事故時5歳だった子どもの発症である。検討委の今年3月の「中間取りまとめ」では、「放射線の影響とは考えにくい」根拠に「事故当時5歳以下からの発見はない」ことが明記してあった。そう記者に問われると、星座長は「1名いたからといって評価を変えることはない」などと回答した。

しかし、子どもの甲状腺がんは100万人に一人と言われ、国立がん研究センターの全国調査でも5歳以下の発症はほぼゼロだ。

第二に、「潜伏期間」と「スクリーニング効果」(後述)の関係である。チェルノブイリ事故から4、5年後に子どもの甲状腺がんが急増した際、それは広島・長崎で確認された甲状腺がんの潜伏期間が10年だったとして、以前は医師の触診でしか見つからなかったがんが、検査機器で検出されるようになった「スクリーニング効果」だとされた。その後、被ばく影響と認め、潜伏期間は4、5年と変更された。

先述の「中間取りまとめ」では、それを根拠に「被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短い」ことが「放射線の影響とは考えにくい」もう一つの根拠として明記された。

さらに、2014年2月に環境省、福島県立医科大学などが共催した国際会議(本誌14年4月4日号参照)でも共同議長の山下俊一医師が英語で取りまとめた議長概要には、甲状腺がんの潜伏期間は4~5年と明記し、それが被ばくの影響なしとした根拠の一つだった。

福島では事故年度から検査機器を使って1巡目で見つからなかったがんが、2巡目までのわずかな年数で数多く検出されるようになった。潜伏期間は4~5年よりも短いと考えるべきだ。筆者は記者会見で「潜伏期間」という言葉を使ってそのことを尋ねたが、星座長は、「潜伏期間という言葉の意味が分かりませんが、前回の先行検査で検出できなかったものが3年後、4年後の検査で見つかったということだろうと思います」と回答した。

また、1986年に起きたチェルノブイリ事故後に検査機器が導入されたのは1991年だったが、その触診しかしていなかった期間でさえ、子どもの甲状腺がんが増えていたという重要な事実は、今までと同様に無視されている。

第三に検討委の「甲状腺検査評価部会」(部会長:清水一雄日本甲状腺外科学会前理事長)で議論された「過剰診断」論についてである。これについては、甲状腺がんの診断を受けた家族で構成される「311甲状腺がん家族の会」が4月に「本来であれば必要のない手術だったのか。国立がんセンターのデータをもとに、疫学的な推計を算出してください」などと検討委に対して要望を出していたが、検討委では、その内容さえ明かさず回覧したとだけ明らかにした。このことを問われると星座長は「個別にいちいち答えることではなく、我が検討委員会になされているという共通認識をもちたい」と患者の不安に答えない姿勢が明らかとなった。

検討委の姿勢は、事実を見ずに「影響はない」という結論ありきではないか。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、6月24日号)

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