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『アンネの日記』事件で揺れる図書館関係者――運営の自由か、閲覧の制限か

 東京都内や横浜市内の図書館で、『アンネの日記』などユダヤ人迫害の関連書籍が相次いで引き裂かれる事件をめぐり、図書館側が対応に苦慮している。再発防止のために閲覧制限を求める声がある一方、図書館運営の自由を脅かすとの懸念もぬぐえず、陰湿な事件の余波が関係者の間に広がっている。 同事件に関するニュースは今年初めから報じられたが、同様の被害は昨年2月から確認されていた。昨年2月に被害が確認された東京都豊島区立千早図書館では、最近のニュースに出てくるような乱雑に破られた状態ではなく、カッターのような鋭利な刃物によって切り取られた状態で発見された。豊島区の図書館関係者によると、千早図書館は本に防犯タグを付けていないことから「何者かが外部に持ち出して切り取った可能性もある」との見方を示している。

 事件に関しては、警視庁が器物損壊などの疑いで捜査本部を設置し、本格的な捜査に乗り出しているが、「防犯カメラの映像解析を進めているが、そもそもこうした犯罪を考えて防犯カメラを設置しているところは少ないので、難航している」(捜査関係者)。前出の千早図書館のように、図書館は「防犯」の側面に弱いとされ、そうした点も捜査の壁になっている。だが、図書館側では、利用者の出入りや閲覧記録といった個人情報を守るとの立場から、事件によって「防犯の強化」という方向に進むことを心配する声が強い。

 また、子どもたちに「間違った歴史認識」を植え付けるとして、広島への原爆投下を描いた『はだしのゲン』(著・中沢啓治)の閲覧制限を求める動きが昨年から出始めていたことから、『アンネの日記』にも閲覧制限がかかるのではないかという懸念も出されている。現に、一部の図書館では『アンネの日記』など関連図書を閉架にする動きも出てきている。一方で、カウンター横など職員の目の届く場所に書籍を移動し、利用者の自由な閲覧を配慮する図書館もあり、対応が分かれている。

 豊島区立上池袋図書館では、カウンター奥に「図書館の自由に関する宣言」(1954年採択)を掲げる。「第1 図書館は資料収集の自由を有する」の2(4)には、「個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない」と記されている。同館は、ブックトラックに関連図書を揃え、カウンターの向かいに置いている。高桑光浩・豊島区図書館課長は「閉架にはしたくない。利用者が自由に本を手に取る環境を整えていたい」と話した。

【「破る自由もある」】

 図書館の被害は300冊以上に上り、2月末には豊島区のジュンク堂で書店としてははじめて、被害が見つかった。犯人像に関してはさまざまな憶測が飛び交っているが「被害は東京23区北西部と隣接地域に集中しており、同一人物による犯行の可能性が高い」(捜査関係者)という。

 こうした状況に対し、海外メディアでは日本の「右傾化」と報じる声も出ている。米国誌『タイム』は「日本で右傾化が進行しているとの印象を深めている」と指摘。韓国の左派新聞『ハンギョレ』は、民族差別を扇動するヘイトスピーチに象徴されるような「病的な右傾化現象と関連があるかにも関心が集まっている」と報じた。

 これに対し、下村博文文部科学相は「許し難い犯罪」とした上で、「日本がファシズムに向かっていることは断じてないというメッセージを強く海外に送る必要がある」と強調するなど対外的なイメージの払拭に躍起だ。しかし、同事件に関しては、中山成彬衆院議員(日本維新の会)が自身のツイッターで「日本人の感性ではない、日本人の仕業ではないと思った」などと発言するなど、「差別」を助長する偏見も出ている。事件の報道後、各図書館には励ましの電話や本の寄贈などがある一方で、「破る自由もある」と主張する電話もかかってきているといい、差別感情が陰湿な形で拡大している。

(北方農夫人・ジャーナリスト+渡部睦美・編集部、3月7日号)