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サリンなど8種、5年間分のみ初開示――防衛省が毒ガス製造量明らかに

2013年8月20日11:15AM

防衛省が明らかにした過去五年間のサリンなど毒ガスの製造量などを示した資料。(撮影/片岡伸行)

防衛省が明らかにした過去五年間のサリンなど毒ガスの製造量などを示した資料。(撮影/片岡伸行)

 陸上自衛隊化学学校(さいたま市日進町)での毒ガス・サリンなどの製造と大宮駐屯地内への毒物遺棄などを報じた本誌の連載「自衛隊とサリン」(六月二八日号まで全六回)を受け、国会議員による防衛省へのヒアリングが七月二四日、東京・永田町の衆議院第二議員会館内で行なわれ、防衛省は化学学校での毒ガス製造を認めた上で、八種類の毒ガスの名称と製造量などを初めて明らかにした。しかし、開示したのは最近五年間のみで、製造量と使用量などの数字に矛盾があるほか、いつから製造していたか「確認できない」とするなど依然不明な点が多い。

 防衛省へのヒアリングは、自衛隊大宮駐屯地のある埼玉県出身の塩川鉄也衆議院議員(日本共産党)が設定し、いわゆる「議員レクチャー」という形で行なわれたもの。地元から村岡正嗣埼玉県議、神田義行さいたま市議らが参加した。

 防衛省が提示した資料によると、二〇〇八年から二〇一二年までの五年間、陸自化学学校で製造されていたのはサリン、タブン、ソマン、VXガス、マスタードガス、窒素マスタード、ルイサイト、シクロサリンの八種類。最も製造量の多いのが致死性の神経ガス・サリンで、五年間に四五八・三グラム。サリンの半数致死量は〇・五ミリグラムとされ、これだけで数万人が死に至る可能性がある。次いで糜爛性ガスのマスタードが同四三五・五グラム、サリン以上の猛毒といわれるVXガスが同三五七・一グラムなどとなっており、八種類合計で同期間に約二キログラムを製造。そのうち計一七五一・七グラムを使用したことになっている。ただ、各毒ガスの製造量と保有量、使用量、廃棄量の差し引き合計が合わないなど不可解な内容となっている。

 本誌の連載(五月二四日号)では山里洋介・元化学学校長が「サリンの合成に成功したのは昭和三九年(一九六四年)」と証言しているが、防衛省は「記事にはそう載ったが、確認できない」とした。また、五年間分の資料に限定したした点については「行政文書の保存義務は五年間なので」とし、そもそもいつから製造していたかについても「確認できない」「資料が見つからない」などと繰り返した。

 本誌六月二八日号で化学学校の元関係者が「一九七九年二月か三月、大宮駐屯地の西側の訓練場とグラウンドの境にある樹木の根っこ近くに三カ所、深さ一メートルほどの穴を掘って、毒物入りの薬品瓶を入れた一斗缶約一〇缶を埋めた」旨を証言している点について、防衛省は歴代の化学学校長と研究部長の氏名を提示したものの、「当時の関係者に聞き取り調査をしたが、事実は確認できなかった」と述べ、誰に確認したかについては明らかにしなかった。

 防衛省はまた、化学兵器禁止条約の批准(一九九五年九月)前に、化学学校が大宮市長(当時、現さいたま市)や同市議会議長、埼玉県企画財政部など地元自治体に「特定物質」(毒ガスのこと)の説明をしたとしたが、地元の神田市議は「市に確認したが、文書は残っていない。来たということを確認できるものはないということだ」とし、「説明」のあり方に疑問を呈した。関連し、神田市議は「住宅地の中で毒ガスを製造しているなら地元に説明をすべき。情報がない中では安全対策も立てられない」と指摘。塩川議員も、災害や事故時の対応に地元への情報提供は欠かせないとし、地元への説明を要請した。

 なお、一七日にはさいたま市民五人が大宮駐屯地を訪れ、「記事にあるように毒ガス製造などが事実なら地元での説明会開催を」などと申し入れた。

(片岡伸行・本誌編集部、8月2日号)

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