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東電刑事告訴・10万人の署名を提出――「東電本店の家宅捜索を」

2013年4月15日5:08PM

検事らに「強制捜査」への着手を訴える福島原発告訴団メンバー=3月19日。(撮影/明石昇二郎)

 東京電力福島第一原発事故の責任者らを集団刑事告訴した「福島原発告訴団」の八〇人が三月一九日、福島地検を訪れた。告訴・告発状を受理してから半年以上が経過し、いまだ強制捜査に踏み出せないでいる検事らを“激励”するためだ。

 告訴団では先月二二日、七〇〇人が東京地検前の歩道を埋め尽くし、「東電本店を家宅捜索して証拠を押収」するよう求める上申書と四万筆にのぼる署名を手渡す“激励訪問”を実施。今月一三日には再び東京地検に対し、六万筆の追加署名を提出していた。この日の福島地検訪問はこの「連続行動」の一環で、署名総数は今年一月の呼びかけからこの日までの約二カ月間に実に一〇万七一〇九筆にも達していた。

 くしくもこの日は、福島第一原発で大規模な停電が発生し、使用済み核燃料プールの冷却システムが停止した翌日。停電と冷却不能状態はこの日も続いており、参加者らは東電の語る「安全」と「事故収束」への不信と不安を口々に語っていた。

 告訴団の武藤類子団長が強い口調で恐怖と怒りをあらわにする。

「停電で冷却が止まっていて私たち福島県民は怖くて仕方がない。汚染による被曝も続いている。福島原発事故は今も全然終わっていないんです」

 告訴団が訪れた福島地検の周辺では、事故から二年が経ち、ようやく「除染」作業が始まっていた。敷地内にある駐車場の空間放射線量は毎時〇・六マイクロシーベルト前後。告訴団が告訴・告発状を提出した昨年六月に同地点で計測された「毎時一マイクロシーベルト」と比べればかなり下がってはいるものの、それでも国の法律が定める「放射線管理区域」の基準(毎時約〇・六マイクロシーベルト)に相当するレベルだ。福島県内は事故から二年がすぎた今もなお、高い放射能汚染に晒され続けている。

【「検察は人手が足りないのか?」】

 告訴団がこの日、検察当局に申し入れた内容は以下の三点に集約される。

(1)東電本店等への強制捜査や事故現場の実況見分なしに、被告訴人らを起訴すべきかどうかの判断はできない。

(2)検察が強制捜査に着手できないでいるのは、人手が足りないからではないのか。ならば、検察は刑事訴訟法に基づき、警察を指揮してすみやかに強制捜査すべき。

(3)二〇〇四年一二月の「スマトラ沖地震」とその津波被害を受け、東電は翌〇五年と〇六年の株主総会で津波対策への対応を尋ねられ、「対応が適切になされている」「問題はない」(いずれも武黒一郎常務・当時)との答弁をしている。これらの答弁は東電が公式にまとめたもので、その作成には多くの被告訴人らが関与しているはず。津波対策を何ら講じなかった責任を明らかにすべく、当時の社内の議事録や稟議書類をしらみつぶしに調べ上げるべき――。

 その上で告訴団は、真相解明のための捜索押収や、証拠隠滅の恐れのある被告訴人らの身柄確保など、必要な強制捜査を実施するよう要請したのだった。

 政府事故調や国会事故調における陳述内容を見ると、東電関係の被告訴人らは、取締役会などで福島第一原発の「耐津波性」について討議されていないことを理由に、刑事責任を逃れようとしているようだ。またこの間、東電が国会事故調にウソをつき、福島第一原発1号機の調査を妨害していたことも判明している。

 加えて、福島県の子どもたちの間では事故から二年間で三例の甲状腺がんが確認され、事故との因果関係が強く疑われている。

 このまま強制捜査もないまま起訴が見送られた後、さらなる甲状腺がんの多発が確認される事態にでもなれば、検察上層部の責任問題にまで発展しかねない。

 近年失態続きの検察は、「被害者とともに泣き、巨悪を撃つ」という本旨にたちかえり、国民の信頼を取り戻せるのだろうか。

(明石昇二郎・ルポライター、3月29日号)

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