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朝日労組の”提言”に真価が問われる新聞労連(その2)

2010年8月4日4:43PM

『朝日新聞』の組合員(社員)は、新自由主義と親和性が高いと言われているが……。(撮影/伊田浩之)

     エリート新聞と新自由主義との親和性

 今村・朝日新聞労組委員長は、次のように説明する。「提言だけを読むと誤解されるかもしれませんが、新聞労連の特化された議論の場に出すので、言わずもがなのことは触れませんでした。働く人を守ることも、新聞への信頼を回復し高めるための新研活動も、その重要性は当然共有されていると思っています。
新聞が持つ公共性・公益性をきちんと主張するためには、第三者的、専門的に分析していただくシンクタンクが必要だと思います。連合との距離感覚については取材と同じで、近づいても取り込まれないようにしなければならない。取り込まれれば記者失格です。いままで、同じ労働組合組織なのに、あまりにも遠すぎ、新聞業界のことが理解されていないのではないかという主張です」

 今村委員長の説明を聞きながら、提言が”善意”から出ていることは理解できた。では、なぜ前出のように新聞労連主流の考え方との距離はなぜ生じるのか。くだけた雰囲気になったとき、私は今井委員長におおよそ次のような話をした。

「『朝日新聞』の組合員(社員)は、新自由主義と親和性が高い人が多いのではないかと思っています。なぜかというと、子どものころから頑張って勉強して良い高校・良い大学に入り、賃金の高い大新聞社で働いている。自分は頑張ったから賃金が高くてもいいと無意識にせよ感じていると、仕事がない人は頑張らなかった人たちだという”自己責任論”に陥ってしまうのではないか。提言にしても、困っている仲間を助け合おうという連帯意識が薄れがちで、新聞産業をいかに守るかという視点に流れてしまうのではないでしょうか」

 朝日新聞労組内では事実、組合収入が先細りを続けるなかで、単組の活動費を上回るほどの新聞労連費を払っていながら「労連に加盟している意義が見えない」との不満が強まっているという。

     根本的な改革論議は今後へ繰り越し

 そもそもの発端は、新聞労連の豊秀一・中央執行委員長(当時)が昨年一二月一〇日に諮問機関「組織・財政問題検討委員会」を設置したことだった。議論のなかで、朝日新聞労組が今年四月二一日、提言を出した。提言には以前から朝日新聞労組が主張していた内容が含まれているという。同委員会は七月二一日、答申を豊委員長に提出した。

 答申では、朝日新聞労組の提言は一部採用された点もあるが、大枠として〈十分な議論ができなかった〉とした。提言後の委員会開催は二回だけだったので、時間不足は当然だったかもしれない。繰り返しになるが、新聞労連主流との距離感も影響したかもしれない。

 新聞労連の中央執行委員を務める今村・朝日新聞労組委員長は、答申後の拡大中央執行委員会で次のように補足コメントを述べた。

「朝日労組としては一定議論がまとまった段階で出しましたが、当然、今後の議論の展開で、学ぶべき点は学び、取り入れるべき点は取り入れていくことは当然です。『四月二一日提言』から一歩も譲らぬとするものではありません。朝日労組は、今後の労連改革の議論の中でも、この提言を土台に話をしていくことになるでしょうが(中略)、自由闊達な議論の上で、様々な可能性が広がり、提言が柔軟にいかされていくことを期待します」

「ナショナルセンターとの関係再考は、『連合だけ』を望んでいるものではありません。(中略)ただし、繰り返しますが、関係を構築する団体の中では、『連合を重視して欲しい』といういことが提言で申し上げている重要な点です」

 提言と比べて柔らかな物腰に驚くが、今後について新聞労連の藤本勝也書記長は「答申を受けてどういった行動をとるかについては、今後議論を深めてゆきます」と話している。

 購読部数や広告収入の減少から、危機感が高まる新聞業界だが、労働組合こそその原点に基づいた議論を深めてほしいと思っている。

(伊田浩之・編集部)

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