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原子力推進機関の部長が福島県立医大の客員教授に就任――県民健康管理調査と利益相反か

福島県立医科大学の客員教授に就任するレティ・キース・チェム氏。(提供/AP・AFLO)

「核の番人」とも呼ばれる国際原子力機関(IAEA)のヒューマンヘルス部長が、原発事故後の県民健康管理調査を委託されている福島県立医科大学の客員教授に就任。この人事に、利益相反ではないかとの疑問の声が出ている。

 就任したのはレティ・キース・チェム氏。放射線医学を専門とする医師で、IAEAと日本の放射線に関する研究機関(日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、広島大学、長崎大学)をつなぐ窓口となっていた人物だ。五月二一日には同大学で就任記念講演が行なわれ、IAEAによる開発途上国に向けた放射線医学関係の援助について紹介した。

 IAEAをあたかも公平中立な機関であるかのように思う人は多い。しかし「原子力の平和的利用」のための研究、開発、実用化を奨励する、まごうことなき原発推進機関だ。IAEAの天野之弥事務局長は、福島第一原発の事故後もエネルギー供給や地球温暖化対策のために原子力を推進する立場に変化がないことを強調している。

 一方、福島県立医大は、「県民健康管理調査」を実施している放射線医学県民健康管理センター内に国際連携部門を設置。海外から専門家を招聘し、専門的な見地から同健康管理調査への支援を受け、国際的な情報発信をも行ないたいとしている。チェム氏の就任を主導したのは、同健康管理調査の座長を務める山下俊一副学長だ。

 福島県議会は昨年一〇月、県内にある第一、第二原発計一〇基すべての廃炉を求める請願を賛成多数で採択。採択を受け、佐藤雄平知事も「原発の再稼働はあり得ない」と述べた。さらに福島県が策定した「福島県復興計画(第一次)」は、「脱原発」「原発に依存しない社会」を理念に掲げ、「国及び原子力発電事業者に対し、県内の原子力発電所についてはすべて廃炉とすることを求める」とした。放射性物質の汚染によって避難を余儀なくされ、生業を奪われ、健康被害の恐怖にさいなまれている県民の意思を反映した内容である。

 他方で、福島県は原発事故による放射線の影響を調査する「県民健康管理調査」を県立医大に委託。県民二〇二万人を対象とし、九六二億三六〇〇万円の関連予算をつぎ込む大規模事業である。

 そのような中でのIAEA職員の客員教授就任は、関係者の間で利益相反行為にあたる可能性がある。つまり、被曝を避けて健康を守りたい、あるいは疾病と放射線の因果関係を明確にしたい県民側の利益と、原発推進を阻害する要因は排除したい機関の利益は、根本的に相容れないのではないか。バイアスのかかる可能性が内在した調査であれば、調査結果の信憑性が疑われてしまうことにもつながる。血税を注いだ調査が意味をなさなくなる可能性があるのだ。

「県民健康管理調査」の委託機関である県立医大にとって、原発推進機関の職員を客員教授とすることは、不適切な人事と言わざるを得ない。同時に、県立医大が脱原発という県民の願いを軽視していることをはからずも露呈することとなった。

 活発な広報活動にもかかわらず、「県民健康管理調査」の問診票の回収率は、わずか二〇%台にとどまっている。科学的に有意なデータにならない低さである。回収率低迷の根底には、県立医大と県民の意識に大きな乖離があるのではないか。

 日本の原子力政策は、IAEAおよび核大国米国のバックアップのもとで実施されてきた。その中で原発推進の研究者は、放射線のリスクを過小評価することにより、原発の安全性を強調してきた。そして福島原発事故後も、人々をできるだけ被曝から守るという発想ではなく、少々の被曝は我慢して受忍せよと強制しているようだ。

 今回の人事は、事故の被害者としての無自覚さが、とりもなおさずIAEAの加害責任を隠蔽する役割をもののみごとに果たしていることを物語っている。

 いまこそ、国内のエネルギー政策とともに、IAEAや米国への追随体制をも抜本的に見直す時期である。もう魂を売るのはよそう。

(杉妻光一・ライター、6月1日号)