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「がれき受け入れ」導くアンケート調査の裏側――環境省・部会長が経営する会社が実施

2012年4月23日1:17PM

『山陽新聞』(本社・岡山市)の三月一五日付朝刊に、「震災がれき『受け入れ賛成』87%」という見出しの記事が掲載された。それによると、「アンケートの結果をまとめた」のは、高速増殖炉「もんじゅ」の開発などを手がけている日本原子力研究開発機構(原研)の人形峠環境技術センターだが、「廃棄物工学研究所」という会社に昨年末「委託」したという。

 調査対象は、電話帳で無作為に抽出した一〇〇〇世帯。五三〇人が「『居住する自治体が処理に協力することに賛成か』との問いに、▽とてもそう思う三四%▽まあまあそう思う二六%▽どちらかといえばそう思う二七%―と、計八七%がおおむね賛成とした」(同紙)。

 だが三枚あるアンケート用紙の一枚目には質問に先立ち、岩手・宮城両県のがれきについて「仮設の焼却処理施設を設置するなどしても間に合わず」、「国は……全国の自治体やごみ処理の組合に協力を求めています」という解説文を掲載。その次に質問項目に移り、「災害廃棄物の処理・処分に他の自治体が協力するのは必要なことだと思う」などの点について、「とてもそう思う」から「全くそう思わない」までの六項目を選択する。

 二枚目も、冒頭に「フィルタ等でセシウムを99・99%以上捕集」といった用語が書かれたイラストや、「放射性物質については、処理施設や処分場では作業員や周辺住民の被ばく量が年間1ミリシーベルト以下になるように……します」といった解説文を掲載。ここでも「放射性物質のリスクは問題ない程度に管理されると思う」等について同じ六つの選択を設けている。

 これについて原発問題で発言している東京工業大学の牧野淳一郎教授(計算天文学)は、「用紙に委託元の原研の記載がなく、目的が『環境問題の正確な情報を市民の皆さんと共有する手法の開発』となっている。市民の意見を求めるという通常のアンケートの趣旨とまったく違う」と指摘する。

 さらに、「多くは高齢の男性が名前を掲載している電話帳から回答者を選ぶのは、そもそも社会調査の基本に反する。公平な調査とは言えない。議論が分かれる『99・99%以上捕集』等の表現を、『正確な情報』と称し、一方的に伝えるものになっている」と述べる。

 この「廃棄物工学研究所」は、二〇〇九年二月にも鳥取県湯梨浜町の方面地区でも「アンケート調査」を同センターから委託されている。同地区では、人形峠のウラン鉱石採掘によって生じた放射性物質を含む残土の撤去運動が起きているが、配布されたアンケート用紙には、残土を現在も放置している同「機構」側の主張そのものが説明文として使用。イラストも多用され、「たい積場の跡措置は……安全かつ最適な方法を検討しています」などと項目ごとに掲載されている。その直後に質問項目があり、「示された方法で措置が行われれば安全だと思う」等について、ここでも「とてもそう思う」等の六つの項目を選択する仕組みだ。

 つまり今回の岡山のアンケートは、鳥取での誘導のやり方がそのまま使われているのだ。だが「『受け入れ賛成』87%」という報道だけが流れたら、世論操作に利用される恐れがある。

 同「研究所」の代表取締役である岡山大学の田中勝名誉教授は、環境省の中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会の部会長。同省は廃棄物・リサイクル対策部の廃棄物対策課が中心となり、細野豪志大臣が震災がれきの自治体受け入れを求める「『みんなの力でがれき処理』被災地復興支援街頭イベント」を主要都市で展開中だ。つまり第三者的立場であるべき環境相諮問機関の部会長が、所属する担当部署で推進されている施策を宣伝するような形で、関連する業務を自分の経営する会社に請け負わせたことになる。

 田中部会長は今回、「研究所」を通じた本誌の取材に応じなかったが、環境省の同対策課は同部会長の会社が震災がれき受け入れ問題に関するアンケートを実施したことについて、「事実を確認していない。確認するかどうかもわからない」と無責任な回答している。

(成澤宗男・編集部、4月13日号)

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