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民主・自民・公明による妥協の産物――骨抜き派遣改正法成立の危機

2011年12月6日10:03AM

 店晒しになっていた労働者派遣法の改正案が今国会で、大幅に後退した形で成立しそうだ。民主党は、雇用不安定化の大きな要因である登録型派遣と製造業派遣の原則禁止を削除することで、自民・公明の合意を取り付けた。

 労働者派遣法の改正案は、元々労使の主張に隔たりが大きかったが、法改正に関する議論が沸騰していた二〇〇八年六月、東京・秋葉原で通り魔事件が起きた。容疑者が全国を転々として働く派遣労働者だったこともあり、当時の舛添要一厚生労働大臣が臨時国会に派遣法改正案を提出すると明言した。

 これを受け、同年七月にまとめられた研究会の報告書に沿った内容で国の議論が進められ、同年一一月の臨時国会に改正法案(当時の政府案+自民党・公明党案)が提出された。

 政府案では不十分だとして翌〇九年六月、当時野党だった民主党・社民党・国民新党は、共同で野党案(三党案)を提出。登録型派遣の原則禁止、違法行為があった場合は、派遣先が労働者を直接雇用したとみなす「みなし雇用制度」の導入などが柱だった。だが、衆議院の解散にともない政府案、野党案ともに廃案となった。

 その後、〇九年に政権交代が起きたことから再度、製造業派遣の原則禁止なども盛り込んだ政府案がまとめられ一〇年の通常国会に提出されたが、ねじれ国会の中、自民・公明の反発により成立せず、審議を継続する一方で実質的な審議には入れないままだった。

 登録型派遣の原則禁止が実現しないまま、3・11東日本大震災が起きた。被災地以外の製造業の工場でも、部品調達ができないことを理由に、派遣労働者が休業・雇い止めを命じられる「震災派遣切り」が相次いだ。形を変えて繰り返される派遣切りに終止符を打つためにも、労働側は一日も早い労働者派遣法改正を求めてきた。

 しかし、今回示された修正案は〇八年一一月に出された自民・公明案を基本的に踏襲した内容に逆戻りしている。「みなし雇用制度」自体は残ったものの、導入は法施行から三年後に延長された。

 さらに、政府案の日雇い派遣の原則禁止が緩和され、「日々または二カ月以内の派遣を禁止」となっていたものが、「日々または三〇日以内の派遣を禁止」とされることで、「三一日以上の雇用見込み」という雇用保険の加入要件を満たさない三〇日という派遣契約が認められることになってしまう。これにより事実上、日雇い派遣労働者が雇用保険に加入できなくなる可能性が高い。しかも、日雇い派遣の禁止の例外を政令で追加できるとしている。

 派遣ユニオン書記長の関根秀一郎さんは、「リーマンショック以降、当時の自公政権下で派遣切りがいっせいに広がり、仕事と住まいを一度に失って命の危機にさらされる派遣労働者が大量に出た。その派遣切りを二度と起こさないような制度を作らなければならない、というのが今回の派遣法改正の柱だったはず。しかし、製造業派遣と登録型派遣の原則禁止を削除したら派遣切りは何度でも繰り返される。派遣法改正案を作った時とは経済状況が違うという意見もある。しかし、ワーキングプアを生み出すとして批判されてきた日雇い派遣の労働条件はより劣悪になり、賃金は今や最低賃金に張り付いたぎりぎりの時給。とても生きていける水準ではなくなっており労働者保護の必要性はさらに高まっている」と語る。

 このまま労働者派遣法改正案の審議に入れない状況が続くと、今後提出が予定されている有期雇用法制にも影響が出る。また、国会が解散すれば、継続審議になっている法案は廃案になってしまう。

 国会の情勢によっては、派遣労働者の権利擁護の立場に立った労働者派遣法の改正法案は提出できなくなる可能性もある。その意味で自民党、公明党への一定の譲歩はやむを得ないにしても、登録型派遣、製造業派遣の原則禁止という政府案の柱をそっくり骨抜きにしてしまってどうするのか。

 まだ間に合う。国会での議論に注目したい。

(清水直子・ライター、11月25日号)

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